第180話 宴の遠鳴り
外からは、少しずつ賑やかな音が聞こえ始めていた。
アルカの中央にある庭園やホールの方から、楽しげな笑い声や楽器の賑やかな音色が途切れ途切れに届いている。
どうやら他ギルドとの交流会を兼ねた宴が本格的に始まったらしい。
すっかり暗くなった部屋の中で、セレンの胸元に頬を寄せていたナナセも、その遠くの音に気付いてそっと顔を上げた。
「……セレンさんは、行かなくていいんですか?」
「んー?」
セレンはすっかり眠そうに瞼を揺らすと、窓の向こうから聞こえる宴の音へ一度だけ耳を傾けた。
「別にいいかな」
あまりにも興味のなさそうな、あっさりとした返事だった。
「……ふふ」
「なに?」
「いえ。セレンさんらしいなって」
ナナセは声を殺して小さく笑った。
せっかくのギルド同士の交流会だというのに、賑やかな宴の席よりもこうして部屋にいることを迷わず選ぶ。
そのセレンの選択がなんだか胸が嬉しくて、ナナセはもう一度セレンの胸元へと頬を寄せた。
「私も、二人でいられる方が、いいです」
静かな部屋に、ぽつりと本心を呟く。
「……うん」
セレンも柔らかく目を細め、小さく笑った。
それからしばらくの間、静寂の中で胸の鼓動を聴き合っていると、ナナセの瞼がゆっくりと重く落ちていく。
「眠い?」
「……少し」
「俺も」
そう言って、セレンは膝の上にいたナナセの身体をそっと腕で抱き上げた。
「わ……」
突然身体が浮き上がったことに、ナナセは驚いて小さく声を漏らす。
セレンはそのまま、静かな寝室へと足を進めた。
ベッドへナナセの身体をそっと横たえ、冷えないように肩まで毛布を掛けてやる。
セレン自身も着たままの制服の上着を脱ぎ、シャツだけになると、そのままナナセの隣へと腰を下ろして横になった。
「寒くない?」
「大丈夫です」
そう答えてすぐに、ナナセは吸い寄せられるように自然とセレンの方へ身体を寄せていく。
毛布の中で、セレンの確かな体温がすぐ近くにある。
それだけで、胸の奥にわずかに残っていた緊張や眠気が、とても心地よいものへと変わっていった。
セレンは隣に寄り添うナナセの頭を撫で、毛布の位置をもう一度肩まで整えてやる。
「おやすみ」
「……おやすみなさい」
ナナセはセレンのシャツの胸元に身を寄せ、その温もりを確しかめるように静かに目を閉じた。
壁の向こう、遠くではまだ賑やかな宴の音が低く響き続けている。
けれど、この部屋の中に流れる時間だけは、どこまでも穏やかで静かだった。
二人はその優しい静寂の中で、互いに寄り添ったまま、ゆっくりと深い眠りへと落ちていった。




