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星を抱くひと  作者: 飴目
第7章

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第177話 愛執の夢

泣いていたナナセの嗚咽交じりの呼吸が、静かな部屋の中で少しずつ落ち着いていく。

それを肌で感じ取ったセレンは、ソファで座る彼女の身体をそっと腕で抱き上げると、そのまま自分の膝の上へと優しく乗せた。


ナナセが小さく驚くように身じろぎすると、セレンはその身体をそっと抱き戻し、背中へと腕を回した。


先ほど触れていた背の羽へもう一度指を添え、愛おしむようにゆっくりと撫でる。


「ひとりにして、ごめんね。怖い思いさせた」

「……っ、違います」


ナナセは慌ててセレンの胸元から顔を上げた。


「セレンさんが謝ることじゃ……」

「いいんだよ」


セレンは少しだけ口元を緩めて笑った。

けれど、その瞳の奥はどこか遠くを見るようで、寂しそうだった。


「俺の見る夢はさ」

セレンは淡々とした、静かな声音で言葉を続ける。


「いつのまにか、ナナセが死ぬ夢になってたんだよね」

「……え」

ナナセは予期せぬ言葉に、目を丸くして息を飲んだ。


あの交流戦の渦中で、セレンがくらった敵の夢魔法。

それは相手の精神の最も脆い部分を直接攻撃し、心を折ることで現実の動きを封じ込めるような精神に干渉する魔法だった。


つまり夢魔法は、セレンの心に最も深く突き刺さる恐怖そのものを、悪夢として見せていたのだ。


「夢の中で、ナナセが死ぬんだ」


セレンは事もなげに話す。


「俺はずっと、それを目の前で見てる」


ナナセは何も言えず、黙り込んでいた。


「何度も、形を変えて」


セレンの静かな視線が、自分の膝の上に座るナナセへとゆっくり落ちる。


「なのにさ」


セレンはほんの少しだけ、自嘲気味に苦笑した。


「俺、夢の中では妙に冷静なんだよね」

「……」

「ナナセが死んでるのに、何とも思ってないみたいに、ただ見てる」


その淡々とした言葉が、ナナセの胸を強く締め付けた。


「でも途中で気付くんだよ」


セレンの声が、少しだけ低く、重くなる。


「……俺が、ナナセが死ぬのを見て、こんなに冷静でいられるわけないって」


そこで、目の前の惨状が偽物の夢だと気付く。

それこそが、夢魔法の精神拘束からセレンが自力で抜け出すための決定的なきっかけだった。


「だから、目が覚めた」

「……」


ナナセは何も言えなかった。言葉が喉に引っかかって出てこない。

セレンはそんな言葉を失ったナナセをじっと見つめて、ふっと小さく微笑んだ。


「分かる? ナナセはもう、そんな存在なんだよ」


その温かく切ない言葉に、ナナセの胸の奥が大きく揺さぶられた。


「だから……」


セレンの指先が、ナナセの繊細な羽をそっと優しく撫で上げる。


「そんなこと、言わないで」


最後の一言だけ、酷く悲しそうな声だった。

自分に支配や従属を求めるような真似はしないでほしいと、そう訴えていた。


「……ごめん、なさい」


ナナセの声が震える。

セレンは少しだけ目を細めた。


「うん」


責める風でもなく。

ただ、彼女の全てを受け止めるように。


そして、セレンはもう一度ナナセの身体を腕の中に深く抱きしめた。


ナナセもまた、セレンの服の胸元を小さな手でぎゅっと掴み返す。


胸の奥が、きゅっと痛いほど詰まっていた。

セレンの手の温もり。

それが、あまりにも痛いほどはっきりと伝わってくる。


かつてカネルに従っていた頃の自分は、過酷な命令を下され、それに従うことでしか自分の存在理由や居場所を確かめることができなかった。


けれど、セレンは違う。

自分に命令しない。縛り付けようともしない。


それなのに、こんなにも自分という存在を必要としてくれている。

自分が死んでしまうことを、夢の中ですら受け入れられないほどに。


それがたまらなく嬉しくて。

同時に、少しだけ怖くなってしまうほどに愛おしかった。


セレンにとって、自分はいったい何なのだろう。


もう、その問いの答えは彼女の心の中でも分かっていた。

単なる「使役妖精」という便宜上の言葉だけでは、とてもではないけれど説明がつかない。


ナナセはセレンの温かい胸元に顔をうずめた。

セレンの腕の中は、誰かの命令に盲目的に従うための場所ではなかった。


『ナナセ』という自分自身として、ただここに存在していい場所だったのだ。


それは自分にとって、ずっと誇らしくて。

ずっと大切で愛おしい、世界でたった一つの特別な場所だった。

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