第171話 動く戦場
ギルド同士が争う中、いよいよアルカの出番が回ってきた。
待機していたアルカの隊員たちが一斉に動き始めると、それまで漂っていた硬い緊張が、はっきりとした戦意へと変わっていった。
今回の勝敗条件は明確だった。
相手ギルドの隊長を戦闘不能にすること。
そのため、ただ真正面から愚直にぶつかり合うだけでは勝てない。
相手の配置を正確に読み、守りの薄い場所を探し出し、敵隊長へと繋がる道を切り拓く必要がある。
そんな複雑な戦場で、フィリスたちのいる特別部隊は、アスレイ率いる部隊の裏取りを担当していた。
正面で激しくぶつかる主力を手堅く補佐しながら、敵の側面や背後からの奇襲を警戒し、機を見て敵を陽動する重要な役目だ。
「行こうか」
フィリスの短い声が飛ぶ。
その直後――。
出撃の開始を告げる重々しい鐘の音が森に鳴り響いた。
森の各所で、一斉に人が散っていく。
セレンも指示を受けるとすぐに走り出した。
ナナセは、その胸元に静かに身を潜めていた。
小さな身体をさらに縮め、外套の内側で徹底して自分の気配を殺す。
ポケットの中で聞こえてくるのは、セレンが力強く踏み出す足音と衣服が擦れる音。
そして、耳のすぐ近くで規則正しく響く彼の深い呼吸音だった。
いつもの単独に近い任務とは、少し勝手が違っていた。
普段の任務なら、立ちふさがる敵を見つければ倒す。
危険があれば冷静に避ける。
必要なら、セレンが得意とする間合いまで一気に距離を詰める。
けれど、今日は違う。
相手もまた、同じようにこちらの出方を探って動いている。
どこに何人潜んでいるのか。
誰が囮で、誰が本命なのか。
どこまでが相手の狙い通りなのか。
目の前の一人の動きだけではなく、味方と敵、その戦場全体の配置を常に頭に入れて動かなければならない。
セレンも走る速度を巧みに変え、時折足を完全に止めると、木々の隙間から遠くの情勢を確認する。
その真剣な横顔には、はっきりとした緊張の色が浮かんでいた。
ナナセはポケットの中から、伝わってくる身体の微かな硬直と緊張を感じ取っていた。
やがて森の奥から、遠くで金属同士が激しくぶつかり合う甲高い音が響いてきた。
別の場所では強い魔法が炸裂し、密生する木々の間から一瞬だけ眩しい光が漏れ出す。
戦場が、本格的に大きく動き始めていた。
セレンは太い木の陰に身を隠し、ピタリと足を止めた。
「……居るな」
低い、小さな呟き。
ナナセもポケットの中で静かに全神経を研ぎ澄まし、周囲の気配を探る。
前方に複数の気配。
敵がこちらの側面へと回り込もうと、足音を忍ばせて移動している。
セレンの鋭い目が細くなった。
次の瞬間には、セレンの身体はもう前へと力強く走り出していた。




