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星を抱くひと  作者: 飴目
第7章

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第169話 自覚

しばらくして。


「そろそろ戻ろ」


セレンの静かな声に、ナナセはゆっくりとセレンを見上げた。


「はい」


淡い黄金色の光を羽にまとったまま、ナナセが小さく頷く。


セレンが手をとると、二人はどちらからともなく歩き出した。

満月の光が差し込む中庭を抜け、静まり返った夜の廊下を並んで歩いていく。


もう夜の空気には、夏の名残はほとんど残っていなかった。秋の気配を感じさせる少し冷えた風が、ふたりの中を静かに通り抜けていく。


それでも、繋ぎ合わされた手だけは、どこまでも温かかった。


部屋へ戻れば、あとはいつもと変わらない夜の時間が待っていた。

部屋の灯りを落とし、いつものように二人でベッドへと入る。

セレンが慣れた動作で、ナナセを腕の中へとそっと引き寄せ、収めた。


「おやすみ、ナナセ」

「おやすみなさい」


静かな暗闇の中で言葉を交わし、ふたりはそっと目を閉じる。


けれど――。


ナナセはセレンの広い腕の中で、小さく瞬きをした。


いつもと同じ夜のはずなのに。

自分を抱き寄せるセレンの手が、ほんの少しだけいつもより優しく感じられた。


背中に回された腕の力加減も、肌に触れる指先のひとつひとつも。

まるで、壊れやすい大切なものをそっと扱うかのように、どこまでも穏やかだった。


ナナセはその温もりを全身で感じながら、安心したようにそっと身体の力を抜いた。

そのまま、セレンの温かい胸元へすり寄るように頬を寄せる。


やっぱり、すごく安心する。

自分はこの場所が心から好きなのだと、改めてそう思った。


一方で、セレンもまた、まだ眠りにはついていなかった。


自分の腕の中にいるナナセの心地よい体温を直接感じながら、暗闇の中で静かに自分の感情と向き合っていた。


ナナセを大切にしたい。

彼女を守りたい。

彼女の望むまま、自由に生きていってほしい。


それは、今まで思ってきたことと何一つ変わらない。

きっとこれから先も、絶対に変わることはないだろう。


けれど――その強い思いのすぐ隣に、もう一つ、確かな感情が存在していることに気付いていた。


自分はナナセのことが、どうしようもなく好きなのだということ。


その気持ちに気付いてしまった今。


いっそのこと、彼女を自分の中だけに閉じ込めて、守り込んでしまいたい。

そして、他の誰でもなく、自分だけを見ていてほしい。

そんな、自分でも酷く身勝手だと分かる思いが、胸の奥からじわじわと全体を浸食し始めていた。


そして、セレンはこの胸を焦がすような暗い感覚を、もっと前から、すでに知っていた。


どうしようもない、ナナセに対する強い独占欲。


セレンは腕の中で呼吸を整えるナナセの白い髪に、そっと指を滑らせ、撫でた。


「……」


口に出して言葉にはしない。言葉にする必要もない。


けれど。

自分のこの醜い独占欲が、彼女への恋情なのだと理由が付いたことで、ずっと胸の奥に引っかかっていた後ろめたさのようなものが、ほんの少しだけ解けたような気もしていた。


セレンは静かに目を閉じる。


そして、腕の中のナナセを、今度はほんの少しだけ強く、愛おしむように深く抱き寄せた。


二人はお互いの確かな温度の中で、静かに深い眠りへと落ちていった。

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