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星を抱くひと  作者: 飴目
第7章

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163/181

第163話 甘いひととき

二人でダイニングの扉を開けると、いつもの薄明かりが二人を迎え入れた。

カウンターの向こうでグラスを磨いていたルナが、入り口の二人に気付いてぱっと顔を明るく輝かせる。


「お、ついに二人で登場かよ」

「……ついにってなに」


セレンが怪訝そうにほんの少しだけ眉を寄せる。

けれど、どこか隠しきれない照れくさそうな雰囲気がその表情の端々に残っていた。


ルナはそんなセレンの反応を見て取ると、ニヤニヤと楽しそうに口元を緩めて笑う。


「いやぁ、今までセレン一人で来ること多かったからさ」

「別に、今日は休み前だから一緒に来ただけ」

「はいはい」

「その顔やめて」


そんな二人の気心の知れた軽妙なやり取りを、ナナセは不思議そうに眺めていた。


「ナナセ、おいで」


セレンがそう声をかけると、カウンターの席へ向かって足を進める。

ナナセも素直にその背中についていくと、セレンは自分のすぐ隣にある椅子をすっと軽く引いてくれた。


「ここ座って」

「はい」


ナナセが椅子に腰を下ろすと、ほどなくしてルナが二人へ向けて静かに飲み物を並べ置いた。


セレンの前には、氷が小さく音を立てる淡い色合いの美しいカクテル。

そしてナナセの前には、透明なガラスのグラスに注がれた色鮮やかな果実ジュース。


「ナナセはこっちな」

「ありがとうございます」


ナナセは両手で冷たいグラスを包み込むように持った。

グラスからは、搾りたての果実の甘く爽やかな香りがふわりと豊かに漂ってくる。


「休み前なら、ゆっくりしていきな」

「うん」

セレンがグラスを持ち上げ、静かに口をつける。

その隣では、ナナセが嬉しそうに果実ジュースのグラスを傾けていた。


そんな微笑ましい二人の姿を静かに見つめながら、ルナはカウンターの向こうでどこか楽しそうに笑っていた。


「ナナセ」


不意に、すぐ隣から自分の名前を呼ばれる。


「はい?」


返事をしようとセレンの方へ顔を向けた時だった。


「はい」

セレンがカクテルのグラスの中に飾られていた果物を指先でひとつ摘まむと、そのまま何の躊躇もなく、ナナセの口元へすっと差し出してきた。


「……っえ」


驚いて小さな声を発している間に、鮮やかな果物がそっとナナセの唇を割って口の中へと押し込まれた。


ナナセは目を大きく見開いたまま、その場で硬直してしまった。


「……ありがとう、ございます……」

ようやくそれだけの言葉を絞り出すように呟く。

両頬がじわりと火照ったように熱くなっていくのが分かった。


「ん」

セレンは何でもないことのように短く返事をすると、再び自分の手元にあるグラスへと視線を戻した。


「ふっ……」


そのあまりにも自然な一連の仕草に、側で見ていたルナが堪えきれずに吹き出した。


「……なに」

「いやぁ、セレンってそういうことするんだなぁと思って」

「どういうこと?」

「別に?」


ルナは心の底から面白そうに、楽しげに笑いを漏らしている。


ナナセは恥ずかしさのあまり何も言い返せず、口の中に入れられた果物をゆっくりと噛み締め、口の中で味わった。


果汁の甘みが広がる。

けれど、その甘さよりも何よりも――。


ほんの一瞬、自分の唇に確かに触れたセレンの指先。

そこから伝わった温もりが、今もまだ自分の唇に残っているような気がした。


「……」

ナナセはますます顔を赤く染めていた。


隣では、相変わらず何も気づいていないような顔で、静かにカクテルを傾けるセレン。


ナナセはその涼しげな横顔をちらりと盗み見てから、そっと視線を手元のグラスへと落とすのだった。

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