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星を抱くひと  作者: 飴目
第2章

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第16話 割り当てられた部屋

フィリスたちと別れたあと。

セレンとナナセは、ナナセに割り当てられた自室の前まで辿り着いていた。


「じゃあ、また明日」

「はい」


セレンが腕の力を緩めると、ナナセの足が床へそっと下ろされた。


「……ありがとうございました」


小さな声でお礼を言うナナセに軽く頷き、セレンはナナセの部屋の扉を開けてやる。

そのまま自分の部屋へ帰るつもりだった。


けれど――ふと、開いたドアの隙間から部屋の中が目に入った。


「……」


セレンの足がピタリと止まる。


部屋の中には、驚くほど何もなかった。

備え付けの最低限の家具。小さな机、椅子、棚。

そして奥に見えるベッド。


けれど、そのベッドには生活感が全くなかった。

シーツは新品のように綺麗に整っている。

それは「綺麗に使っている」というより――「一度も使われていない」状態だった。


まるで、この部屋を与えられてから一度もまともに横になって生活していないかのように。


セレンは眉をひそめた。

「寝てる?」

「……大丈夫です」

ナナセが即答する。けれど、ほんの少しだけ視線を泳がせた。


「そうじゃなくて」

セレンは言い方を変える。

「……寝られない?」

「……」


ナナセは黙り込んだ。

やがて、諦めたように小さく小さく頷く。

「……横になって休む、習慣がなくて」

「……」


それ以上、セレンは追求しなかった。

理由を聞けば、おそらくナナセが自分から話したくない過去に触れることになる。

キサから聞いた報告書の話もある。

セレンはただ静かにナナセの部屋を見つめ、それからドアを静かに閉めた。


「おいで」

「……?」

セレンは迷わず、ナナセの細い手を取った。

「え」

ナナセが驚いたように目を丸くする。

けれどセレンは構わず、そのままの足取りで歩き出した。


「セレンさん……?」

「こっち」

「どこへ……」

「俺の部屋」

「……?」


ナナセは不思議そうな顔をしたまま、拒むこともできず手を引かれて歩いていく。

やがて、セレンの部屋の前へ着いた。

鍵を開けて扉が押し開かれる。


ナナセは中を覗き込み、少しだけ目を丸くした。

自分の部屋よりずっと広く、家具も多い。

机や棚だけでなく、ゆったりとした大きなソファまで置かれていた。


セレンはナナセの手をそっと離すと、自分だけ先に部屋の中へ入る。

「こっちのほうが広いし」

そう言って、壁際のソファを指さした。

「自由に使って」

「……私が、ですか?」

「うん」


ナナセは戸惑いながらも、セレンに促されるままソファへ腰を下ろした。

深く、柔らかく身体が沈み込む。


「……」


通されたものの、ここで何をしていいのか分からない。そんな顔でナナセは硬直している。

セレンはそれを見て、少しだけ首を傾げて考えた。


「寝てもいいし」

「……」

「本読んでもいいし」

「……はい」

「何もしなくてもいい」


ナナセが顔を上げる。セレンと正面から目が合った。

「……何もしなくても、いいんですか?」

「うん」

「……」

ナナセはしばらくセレンを見つめていた。

それから、静かに、ゆっくりとソファの背もたれへ身体を預けた。


「……分かりました」


セレンはそれ以上何も言わず、背を向けて自分の作業机へ向かった。

ナナセはソファに深く座ったまま、静かにその背中を見つめていた。


自分の部屋にはなかった音がする。


紙をめくる音。

机の上に物を置く音。

セレンが時々椅子を動かす音。


それが不思議と落ち着いた。

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