第147話 秋思と呼ぶには
「セレンも、きっと寂しいと思うよ」
ナナセの小さな独り言にそっと返すように、カウンターの向こうでルナが話しかけた。
「……そうでしょうか?」
少し戸惑いながら、ナナセはハーブティーから顔を上げる。
「あいつ、意外と寂しがりやだからな」
ルナは確信を込めるようにそう頷きながら、どこか面白そうに笑っていた。
「……?」
けれど、それはナナセの中にあるセレンの姿とは、少し結びつかなかった。
ナナセの知るセレンは、感情を荒らげることも少なく、あまり寂しがるようには見えない。
フィリスたち特別部隊の仲間とは長い付き合いだし、皆と一緒にいる時は楽しそうに笑っている。
けれど、普段は部屋で一人、静かに本を読んでいることも多い。
誰かを求めて執着するような様子を見せることも、ほとんどないように思えた。
強いて浮かべるとすれば、キサと二人きりで長く深く話しているところを見かけるくらいだ。
それに、今この瞬間も、セレンは夜遅くまで任務に出ている。
連日忙しそうにしている任務の最中なのだから、寂しいなどと思う心の余裕もないのではないだろうか。
「……あまり、想像できません」
素直に思ったままをそう口にすると、ルナはふっと柔らかく笑った。
「まあ、ナナセから見たらそうかもね」
そしてルナは、カウンター越しに少しだけ身体を乗り出してきた。
「自分からはあんまり言わないんだよ」
「……そうなんですか?」
「うん。だから分かりにくいだけ。あいつには言わないでね」
ルナは悪戯っぽく楽しそうに笑いながら、目の前のハーブティーのカップへ視線を落とした。
「でもさ」
少しだけ間を置いて、ルナは声のトーンを落として言った。
「ナナセが寂しかったって言ってやれば、喜ぶと思うよ」
「……」
ナナセの瞳が、パチ、と軽く瞬いた。
「喜ぶ……?」
「そりゃもう」
ルナはくすくすと、この場に居ないセレンをからかうように笑う。
「自分がいなくて寂しかったんだ、って分かったら。あいつ、絶対嬉しいと思う」
「……」
ナナセは再び、手元のカップに注がれたハーブティーを見つめた。
自分が寂しかったという本心を、セレンに直接伝える。
ただそれだけのことなのに、想像するだけで胸がそわそわして少しだけ恥ずかしい。
けれど――。
もし本当に、セレンも自分と同じように寂しいと思ってくれているのだとしたら。
帰ってきたセレンに向かって、「寂しかった」と自分から伝えたなら。
彼は一体、どんな顔をするのだろう。
そう思いを巡らせると、胸の奥がほんの少しだけ温かくなった。
「……帰ってきたら、言ってみます」
小さく決意を込めてそう呟くと、ルナは満足そうに口元を緩めて笑った。
「うんうん。それがいい」
ナナセはハーブティーを一口飲む。
さっきまで心を満たしていた寂しさが、これで完全に消え去ったわけではない。
それでも――。
帰ってきたセレンに迎える言葉が一つできたことで、重かった心が少しだけ軽くなっていたのだった。




