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星を抱くひと  作者: 飴目
第6章

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145/186

第145話 祭りの余韻

浜辺に集まっていた人々が、ちらほらと名残惜しそうに帰り始めた頃――。


「俺らも戻るか」

フィリスの穏やかな声を合図に、特別部隊の宴もゆっくりと解散になった。


「飲みすぎた……」

帰り道、酒の回ったナギがふらふらと覚束(おぼつか)ない足取りで歩き、その身体をソラトが心底呆れたような顔でしっかりと支えている。


「だから言っただろ。ほどほどにしろって」

「いやぁ、星が綺麗だったからさぁ」

「星のせいにするなよ」

そんな微笑ましい二人のやり取りの少し前を、フィリスたちが楽しそうに歩いている。


セレンとナナセは、そのさらに少し後ろを二人でゆっくりとした歩調で歩いていた。


夜更けの静まり返る道は、行きよりもずっと静寂に包まれている。

昼間のうだるような暑さはすっかり遠のき、通り抜ける夜風にはひんやりとした涼しさが混じり始めていた。

季節そのものが、ほんの少しずつ次の秋へと向かい始めているようだった。


繋いだままの二人の手。

少しお酒を飲んだセレンの手は、いつもよりもぽかぽかと熱を持っていた。

その確かな熱が、涼しい夜風の中では不思議とたまらなく心地よい。


ナナセは何も言わず、その手をそっと握り返していた。


◇


部屋へ戻る前、二人はいつものあの小さな中庭へと立ち寄っていた。


「涼し……」


中央にある噴水の縁に腰を下ろしたセレンが、酒で火照った身体を夜風に晒して心地よさそうに息を吐く。


祭りの終わりを告げるかのように、夜空を横切る星の流れる数も少しずつ減っていた。

さらさらと溢れ出る水の音が、静まり返った中庭に絶え間なく響いている。


ナナセは、そのすぐ隣に座ったセレンの横顔をじっと見つめていた。

いつも目にする彼より、ほんの少しだけ気が抜けている。

髪もどこか無造作に乱れており、着ている私服も普段よりゆるく着崩れていた。

何よりも、今の彼の表情――。


任務中に見せる冷徹な鋭さも、訓練中の真剣な雰囲気もそこには一切ない。

ただ心地よい酒と冷たい夜風に身を委ねたような、ゆるやかで穏やかな顔をしている。

ナナセはしばらくの間その横顔を眺めていたが、ふと嬉しくなって小さく笑った。


「……ん?」


その微かな気配に気付いたセレンが、首を傾げてナナセを見る。


「なに?」


少し酒で掠れた、甘く優しい低音の声。


「いえ……なんでもないです」


ナナセは恥ずかしそうに小さく首を振った。


本当は。

こうして誰にも邪魔されず、セレンの隣に並んで座っていることが、なんだかたまらなく嬉しかったのだ。


それと同時に、今日の、あの海辺でのセレンのことも思い出していた。


星の満ちる海の中で、自分の手を取って。

そっと口付けをしたこと。

あの時のセレンの表情は、今のゆるやかなものとは少し違っていた。

切なげで、真摯で、真っ直ぐで――。


あの時彼が囁いてくれた「綺麗だ」という言葉も、まだナナセの胸の奥深くに温かく残っている。

思い出すだけで、彼女の白い頬が少し熱くなっていくのが分かった。

あのキスの意味が何だったのかを尋ねるには、今のナナセにはまだ恥ずかしすぎた。


「……そう?」


セレンは深く追及することもなく、また静かな噴水へ視線を戻す。


「じゃあ、なんでもないってことにしとく」

「……はい」


ナナセもその優しさに甘えるように小さく笑う。


冷たい夜風が、寄り添う二人の間を穏やかに通り抜けていく。

噴水の水面が風に揺れ、落ちる月明かりが細かく砕けてきらきらと輝いていた。


ナナセはその静かで美しい景色を眺めながら、そっとセレンの暖かな手に自分の指を重ねた。


熱を持ったセレンの手が、重ねられた指先に反応して少しだけ動く。


そしてセレンも何も言わず、その指先を包み込むように優しく握り返した。


夜の静寂の中、二人の間には、それ以上の言葉はもう必要なかったのだった。

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