第14話 第五部隊の人間
フィリスたちは、五部隊の隊員たちが近づいてくるのを静かに待ち構えていた。
「フィリスさん。お疲れ様です」
五部隊の先頭に立つ男が、フィリスに丁寧な動作で頭を下げる。
「他の皆さんも、全体集会お疲れ様です」
「お疲れ」
フィリスが感情の読めない声で軽く返す。
ナギやソラトも、普段の気さくな笑みを消して挨拶に応じた。
表面上は、何ひとつおかしくない。
全体集会の後によく見られる、部隊同士のありふれた挨拶の風景だった。
けれど、五部隊の男たちの視線は、チラチラと何度かホールの奥へと向けられていた。
先ほどまでナナセが隠れていた場所。
そして、そこから彼女を抱えて姿を消したセレンの去り際。
フィリスは、彼らの不躾な視線を見逃さなかった。
少しの重苦しい沈黙の後。
フィリスが、五部隊の真ん中に立つ男へとスッと視線を定めた。
「……君が、カネル?」
「……え?」
名前を直接呼ばれた男が、わずかに目を見開く。
カネル。
かつてナナセを限界まで酷使し、傷つけていた元契約者。
「はい」
一拍遅れて、取り繕うように返事をする。
「そうですが……」
カネルはフィリスをまじまじと見返した。その瞳の奥には、わずかな警戒と探るような色が浮かんでいる。
「何か、私に御用でしょうか?」
「いや」
フィリスは淡々と答えた。
「ただ、名前を確認しただけだ」
「……そうですか」
カネルは口元だけで笑ってみせた。
けれど、その笑顔はあからさまに動揺と警戒を含んでいる。
「以前から、特別部隊の皆さんとはあまり直接的な接点がありませんでしたから。覚えていただいて光栄です」
「そうだな」
フィリスの表情は一切変わらない。その圧倒的な立ち姿に、カネルはどこか居心地悪そうに周囲を一度見渡した。
ナギ。ソラト。ヒヨリ。
全員が自分を冷ややかな目で見下ろしている。
そして――特別部隊の一戦力であるセレンの姿がないことに気づく。
「……今日は、セレンさんも来られているとお聞きしましたが」
「いるよ」
ナギが抑えた声で答える。
「少し、外に行ってる」
「そうですか……」
カネルは深く頷いた。
そしてもう一度、フィリスの静かな瞳を見つめ返す。
「それでは、改めて」
軽く頭を下げて見せる。
「カネルです。第五部隊の部隊長を務めております。今後ともよろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
フィリスも短く返した。
その一連の挨拶が終わっても。
フィリスはカネルから決して視線を外さなかった。まるで相手の腹の中をすべて見透かしているかのような、静かで重い圧力がカネルを押し潰す。
カネルもまた、何かを探るようにフィリスを見つめ返していた。
自分たちの例の報告書の件が、ナナセを通して漏れているのか、それともただの威嚇なのか――測りかねている様子だった。
けれど。
どちらも、それ以上は何も口にしない。
やがて五部隊が会釈をして離れていくと、ホールには再び周囲の隊員たちの賑やかな話し声が戻ってきた。
ただ――。
フィリスたちの周囲だけは、先ほどまでよりもずっと低く、重い空気が漂い続けていた。




