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星を抱くひと  作者: 飴目
第6章

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第128話 星を汲む

「ナナセ」


涼やかな水に心地よく身体を預け、ふわりと浮かびながら目を閉じていたナナセの頭上から、ふいに低く優しい声が降ってきた。


「……?」


ナナセが少し驚いて、ゆっくりと瞼を開ける。


いつの間にか、岸辺にいたはずのセレンも浅瀬から湖の中へ入ってきていたのだった。


少し離れた湖の中央付近では、フィリスも湖に入り、ナギたちと楽しそうな歓声が賑やかに響いている。

水飛沫を弾けさせて無邪気に掛け合う音や明るい笑い声が、広大な湖の静寂の中に柔らかく広がっていた。


けれど、その賑やかな輪から離れ、セレンだけがまっすぐにナナセの浮いている場所まで歩み寄ってきていた。


「セレンさん?」

「ああ」


セレンは水面に浮かぶナナセの姿を静かに見つめていた。


透明な水面に、ゆらゆらと浮かぶナナセの長い髪が広がっている。

透き通った水中には、彼女の身体から零れ出す淡く神秘的な魔力の光がゆらりと漂い、ナナセが呼吸を繰り返すたびに、その華奢な体内を巡る光の筋が僅かに明滅して揺れる。


頭上の差し込む太陽の光を浴びたその姿は、普段の陸の上にいる彼女よりもずっと、どこか儚く見えた。


今にも少し強い風がひと吹きすれば――。

水面が大きく激しく揺れ動けば――。


このまま透き通った湖の奥深くへと溶け込んで、永遠に消えていなくなってしまいそうな錯覚さえ覚えるほどだった。


「……ナナセ」

「はい?」


セレンは静かに胸まで水に浸かりながら、水面に浮かんでいるナナセの背中へ、そっと手を伸ばした。


彼女が水底へと沈んでしまわないように、どこかへ流されてしまわないように、優しく静かにその身体を支える。


「水の中でも綺麗だね」

「……え」


ナナセが驚いたようにパチクリと目を瞬かせた。

そんな言葉をかけられると思ってもいなかったのか、彼女の白い頬がじわりと赤く染まっていく。


けれどセレンは冷やかす風でもなく、ただ真剣な眼差しでそのままナナセを見つめ続けていた。


「でも」


少しだけ声音を落とし、セレンは胸の奥の祈りを込めるように呟く。


「消えていなくならないでね」

「……?」


ナナセはセレンの言葉の意味が捉えきれず、不思議そうに首を小さく傾げた。


水の中で、セレンの大きな手がしっかりと自分の背中を支えてくれている。

揺れる水面の上で、二人の身体が波に合わせてゆっくりと揺れていた。


「消えませんよ」


ナナセはセレンの心配を拭い去るように、ふっと柔らかく笑ってみせた。


「私、ちゃんとここにいます」

「……うん」


セレンは少しだけ切なそうに、小さく頷いた。


そのまま、ナナセの背中を支えている自分の手に、確かな存在感を確かめるようにほんの少しだけ力を込める。


ナナセはその手に込められた力の深い意味までは深く考えないまま、セレンの温もりに包まれてまた心地よさそうに目を閉じた。


遠くの浅瀬からは、仲間たちの楽しそうな笑い声が微かに響いてくる。


澄んだ水の中をゆらゆらと漂う、自分自身の体から紡がれる魔力の光。


どこまでも静かで、甘く穏やかな時間が二人の周りだけに流れていた。

ナナセがほんの少しだけ体重を移動させ、セレンの温かな手の中へ背中を預ける。


セレンは何も言わず、そのまま彼女の全てを受け止めた。


澄み渡る湖面が、寄り添い合う二人の周りで静かに、どこまでも優しく揺らめいていた。

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