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星を抱くひと  作者: 飴目
第2章

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第12話 過去の影

全体集会が終わると、いつものようにホールにはそのまま大勢の隊員が残った。


集会の後は、自然と各部隊の交流会のような雰囲気になる。

別の部隊同士で情報交換をしたり、顔見知りに声をかけたりと、そこかしこで歓談の輪が広がっていた。


「お疲れ様です」

「特別部隊の皆さん、お疲れ様でした」

「先日の合同任務、ありがとうございました!」


フィリスたちのところにも、次々と他部隊の人間から声がかかる。

フィリスはそのたびに軽く会釈を返し、ナギやソラトも気さくに応対していた。


「お疲れ」

「どうも」

「また今度、合同訓練頼むよ」


そんな賑やかなやり取りを、ナナセは少し離れた場所から見つめていた。

他の戦闘部隊の隊員たちは、フィリスたちに対してどこか深い敬意を持って接している。

それが、ナナセにはとても新鮮に映った。


以前所属していた第五部隊では、真反対だった。

常に上にへりくだり、揉み手をしながら愛想を振りまき、少しでも評価してもらうために必死で『敬意を払う側』に徹していた。

前主人であったカネルも、上層部や強い部隊の前では愛想笑いを浮かべ、その裏で溜め込んだ鬱憤や怒りをナナセへぶつけていたのだ。


けれど、今は違う。

フィリスたちの周囲には自然と人が集まり、誰もが敬意を払っている。


そして不思議なことに、ナナセへ不躾《ぶしつけ》に無理な接触をしてくる者はいなかった。

セレンがあまりこの手の交流を好まないのか、少し離れた壁際に背を預けていたというのもあるし、特別部隊の使役妖精として一線を画されているのかもしれなかった。


おかげで、ナナセの周囲にはほんの少しだけ静かな空間が保たれていた。

それが、今のナナセには何よりもありがたかった。


人の波の中に完全に揉まれなくていい。

ナナセはその事実に、密かな胸の安らぎを感じていた。


「……」


ナナセがそんなささやかな安らぎを覚えていた、まさにその時。


フィリスがふと、セレンのほうへ近づき、顔を寄せた。


「おい、セレン」

「ん?」


フィリスが言葉少なに、目線だけをスッと動かす。


「あれ」

「……?」


セレンもそちらへ視線を遣う。


フィリスが見つめているのは、少し離れた壁際。

歓談する人の輪の向こう側だ。


そこにいるのは、ひとつの戦闘部隊の集団だった。

数人の男女がまとまって何かを話している。


その腕章。所属を示す部隊の紋章。


セレンは一瞬で気づいた。


「……第五部隊」


ナギもその視線に気づき、ハッと息を呑む。

「……あ」


ソラトの顔から、さっきまでの明るい笑みが消えた。

ヒヨリも言葉を失い、静かに、けれど険しく視線を向ける。


第五部隊。


ナナセが以前、死の直前まで酷使されていた部隊。


当然、あの中にナナセの顔や過去を知る人間がいる可能性は高かった。


セレンは無意識に、そっとナナセのほうへ目を向ける。

ナナセはまだ気づいていない。


セレンの後ろで、人の流れをボーッと眺めている。

いつもと変わらない、静かで感情を抑えた横顔。


けれど。

もしあの向こうにいる五部隊の人間がナナセに気づいたら。

あるいは、ナナセが彼らの姿を目にしてしまったら――どんな顔をするのか。


フィリスが低い声で囁《ささや》く。


「……どうする、セレン」


セレンはすぐには答えなかった。

ただ、ナナセと五部隊との距離を静かに測るように、灰色の瞳を動かした。


距離にして、ほんの数十メートル。


けれど――。

ナナセにとっては。

地獄だった過去と、ようやく手に入れかけた居場所を隔てるには、あまりにも危うく、近すぎる距離だった。

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