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星を抱くひと  作者: 飴目
第4章

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107/182

第107話 涙の名残

「動かないで」


セレンの低く優しい声が、すぐ近くから聞こえる。


次の日の朝。

目覚めたナナセは、セレンに言われた通り素直に目を閉じたまま、ベッドの上で大人しくしていた。


直後、目元にひやりとした心地よい感触がそっと触れる。

冷たい水で絞られた冷やしタオルだった。


「……すみません」


ナナセは少し申し訳なさそうにぽつりと呟き、自分の目元を押さえてくれているセレンの大きな手へ、小さな手をそっと重ねた。


ひんやりとした冷たいタオルが、昨夜遅くまで泣き続けた熱い目元をじんわりと冷やしていく。

熱を持ってじんじん、ひりひりとしていた目元に心地よい冷たさが広がっていき、強ばっていた肩の力が自然と抜けていった。


「だいぶ腫れたね」


タオルの上から目元を軽く押さえながら呟くセレンの声には、少しだけ可笑しそうな笑いが混じっている。


「……」


ナナセは返す言葉もなく、ただ黙り込むしかなかった。


目を閉じていると、どうしても昨夜の出来事が克明に思い出されてしまう。

セレンの服を強く掴んで、子どもみたいにあんなに大声で泣いたこと。

声すら抑えられなくなって、何度も何度も溢れ出る涙を流し続けたこと――。


その時の自分の姿を思い出すほどに、顔全体がみるみる熱くなっていくのが分かった。


「……恥ずかしいです」

「何が?」

「昨日の……私です」

「そう?」

セレンは手元を動かし、タオルの位置を少しだけ丁寧に調整する。

「俺は、別に嫌じゃなかったけど」

「……」


そう言われてしまっては、余計に恥ずかしさが込み上げてくる。

ナナセは固く目を閉じたまま、タオルの上でセレンの手を握る指先に、少しだけギュッと力を込めた。


「……忘れてください」

「無理」

即答だった。

「え……」

「だって、あんなに泣いてたのに」

「……」

「久しぶりにああやって泣く人見た」

くす、とセレンが楽しそうに息を漏らして笑う。


ナナセはますます顔を真っ赤に染め上げ、冷たいタオルの下へ逃げ込むように、少しだけ顔を下に伏せた。


「……もう、いいです」

「はいはい」

セレンは心底楽しそうに返事をしながら、もう一度優しく手元を動かして目元を冷やしていく。


しばらくの間、静かで心地よい朝の時間が流れていった。


「でも」


ふと、セレンの声が少しだけトーンを落とし、どこまでも柔らかい響きへと変わる。


「昨日みたいに、我慢しなくていいからね」


ナナセは冷たいタオルの下で目を閉じたまま、セレンの言葉を噛み締め、静かに深く頷いた。


「……はい」


その素直な返事を聞いて、セレンは満足そうに、口元を緩めて微笑むのだった。

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