第105話 籠絡するひと
ひとしきり胸の中で泣き明かしたあと――。
ナナセの切ない嗚咽は、時間をかけて少しずつ、少しずつ小さくなっていった。
セレンの服を強く握りしめたまま、ぼんやりと彼の温かな胸元に身体を預けて寄りかかっている。
心ゆくまで泣き疲れてしまったのか、もう複雑なことを深く考えるような心の余裕も残っていないようだった。
セレンは胸元でまどろむように静かになったナナセを優しく見下ろし、ふっと声を漏らして笑う。
「はは、泣きすぎ」
ちょっぴりからかうような言葉遣いなのに、耳に届くセレンの声はどこまでも甘く、優しかった。
大きな手が、乱れたナナセの髪と頭を慈しむようにゆっくりと撫で上げていく。
「……ごめん、なさい」
息を整え、ようやく最後の嗚咽を収めながら、ナナセは照れくさそうに少し困ったように笑ってみせた。
「なんで謝るの」
「……泣きすぎました」
「別にいいよ」
セレンはそう言うと、いとおしむようにもう一度頭を優しく撫でてくれた。
それから、ソファに腰掛けたまま、弱々しいナナセの身体を両腕でそっと丁寧に抱き上げる。
「わ……」
まだ頭がぼんやりとしていたナナセは、落ちないように反射的にセレンの首元へ細い腕を回していた。
セレンはそのままナナセを腕に抱いたまま、静かにキッチンへと向かう。
「水、飲も」
「はい……」
セレンはナナセを腕の中でしっかりと支えたまま、片手で手際よくコップを取り出すと、その口元へと優しく運んでゆっくりと水を飲ませてくれた。
冷たい水が身体に染み渡り、乾いた喉が潤っていく。
それとともに、こわばっていた全身の力が心地よく抜けていった。
「……ありがとうございます」
「うん」
そのままセレンは静かな足取りで寝室へと向かった。
柔らかいベッドの上へナナセの身体をそっと下ろすと、冷えないように手際よく毛布をかけて包み込む。
「今日はもう寝よ」
「はい……」
セレンは横たわるナナセの頭を、最後にもう一度ぽんとなだめるように撫でた。
「着替えてくるから、先に寝てて」
そう言ってセレンが一度その場を離れようと身体を引いた、まさにその瞬間――。
ナナセの小さな指先が、セレンの服の袖口をきゅっと小さく掴み取った。
セレンが驚いて足を止め、振り返る。
「……ナナセ?」
「……」
ナナセは何も言わない。
ただ、ほんの少しだけ寂しそうな、置いていかないでほしいと乞うような目で見上げている。
セレンはその無防備な表情を見つめ、全てを察したようにふっと優しく微笑んだ。
「大丈夫。すぐ戻るから」
そして、彼女の不安を完全に打ち消すように、もう一度かがみ込んでナナセの身体を優しく強く抱きしめてくれた。
「おやすみ」
セレンの温かな腕と心地よい体温に包まれながら、ナナセは満足そうに小さく頷いた。
「……おやすみなさい」
セレンの身体が静かに離れていく。
けれど――今度はもう、不思議なほど不安にはならなかった。
自身の胸元には、セレンから託された大切な銀色のハチドリ。
そして、さっきまで自分を包み込んでくれていた、セレンの温かな体温の残響がはっきりと残っているのだから。
ナナセはその愛おしい感覚を大切に胸に抱えたまま、ゆっくりと静かに目を閉じるのだった。ひとしきり胸の中で泣き明かしたあと――。
ナナセの切ない嗚咽は、時間をかけて少しずつ、少しずつ小さくなっていった。
セレンの服を強く握りしめたまま、ぼんやりと彼の温かな胸元に身体を預けて寄りかかっている。
心ゆくまで泣き疲れてしまったのか、もう複雑なことを深く考えるような心の余裕も残っていないようだった。
セレンは胸元でまどろむように静かになったナナセを優しく見下ろし、ふっと声を漏らして笑う。
「はは、泣きすぎ」
ちょっぴりからかうような言葉遣いなのに、耳に届くセレンの声はどこまでも甘く、優しかった。
大きな手が、乱れたナナセの髪と頭を慈しむようにゆっくりと撫で上げていく。
「……ごめん、なさい」
息を整え、ようやく最後の嗚咽を収めながら、ナナセは照れくさそうに少し困ったように笑ってみせた。
「なんで謝るの」
「……泣きすぎました」
「別にいいよ」
セレンはそう言うと、いとおしむようにもう一度頭を優しく撫でてくれた。
それから、ソファに腰掛けたまま、弱々しいナナセの身体を両腕でそっと丁寧に抱き上げる。
「わ……」
まだ頭がぼんやりとしていたナナセは、落ちないように反射的にセレンの首元へ細い腕を回していた。
セレンはそのままナナセを腕に抱いたまま、静かにキッチンへと向かう。
「水、飲も」
「はい……」
セレンはナナセを腕の中でしっかりと支えたまま、片手で手際よくコップを取り出すと、その口元へと優しく運んでゆっくりと水を飲ませてくれた。
冷たい水が身体に染み渡り、乾いた喉が潤っていく。
それとともに、こわばっていた全身の力が心地よく抜けていった。
「……ありがとうございます」
「うん」
そのままセレンは静かな足取りで寝室へと向かった。
柔らかいベッドの上へナナセの身体をそっと下ろすと、冷えないように手際よく毛布をかけて包み込む。
「今日はもう寝よ」
「はい……」
セレンは横たわるナナセの頭を、最後にもう一度ぽんとなだめるように撫でた。
「着替えてくるから、先に寝てて」
そう言ってセレンが一度その場を離れようと身体を引いた、まさにその瞬間――。
ナナセの小さな指先が、セレンの服の袖口をきゅっと小さく掴み取った。
セレンが驚いて足を止め、振り返る。
「……ナナセ?」
「……」
ナナセは何も言わない。
ただ、ほんの少しだけ寂しそうな、置いていかないでほしいと乞うような目で見上げている。
セレンはその無防備な表情を見つめ、全てを察したようにふっと優しく微笑んだ。
「大丈夫。すぐ戻るから」
そして、彼女の不安を完全に打ち消すように、もう一度かがみ込んでナナセの身体を優しく強く抱きしめてくれた。
「おやすみ」
セレンの温かな腕と心地よい体温に包まれながら、ナナセは満足そうに小さく頷いた。
「……おやすみなさい」
セレンの身体が静かに離れていく。
けれど――今度はもう、不思議なほど不安にはならなかった。
自身の胸元には、セレンから託された大切な銀色のハチドリ。
そして、さっきまで自分を包み込んでくれていた、セレンの温かな体温の残響がはっきりと残っているのだから。
ナナセはその愛おしい感覚を大切に胸に抱えたまま、ゆっくりと静かに目を閉じるのだった。




