第10話 特別部隊の選択
キサは医療室の入口まで、五人を見送った。
「じゃあ、俺から言えるのはこのくらいかな」
そう言って扉を閉めようとしてから、ふと思い出したように振り返る。
「……ああ、そうだ」
去りかけていたフィリスたちが足を止める。
キサは少しだけ目を細めて笑った。
「ナナセの治療をしてたときにね、あの子の魔力を直接見たんだけど」
その言葉に、セレンがピクリと反応して顔を上げる。
「ナナセは、アルカにいるのが不思議なくらい優秀な妖精だよ」
「そんなに?」
ナギが驚いたように尋ねる。
「うん。元々精霊の森の子らしいけど。俺も加入して五部隊に配属された経緯までは知らない」
キサは深く頷いた。
「魔力の質も量も別格。制御も精密そのものだ。たぶん、本人が本気で力を使えば、かなりすごいことができると思う」
セレンは無言のまま聞いていた。
今日の任務中、自分の肩の上で一度も魔法を使わず、じっと息を潜めていた小さな姿を思い出す。
キサは優しく続けた。
「まあ、そのうちナナセのほうから見せてくれるようになると思うけどね」
少しだけ間を置いてから。
「今は……なるべく、仲良くしてあげて」
キサは五人を順番に見つめ、最後にセレンへと視線を向けた。
「……まあ、言うまでもなさそうだけど」
柔らかく微笑むキサに、ナギが少し照れくさそうに笑った。
「もちろん。最初から仲間扱いしてるつもりだけどさ」
ソラトも頷く。
「うん。もう普通に俺たちの一員だしな」
「そうだな」
フィリスも短く、けれど力強く答えた。
ヒヨリは穏やかに微笑む。
「ナナセがここで安心して過ごせるなら、それが一番だよ」
最後まで何も言わずに立っていたセレンに、キサが問いかける。
「セレンは?」
「……」
セレンは少しだけ考えるように目を伏せてから吐き捨てた。
「……別に」
キサが可笑しそうに笑う。
「ふふ、その返事なら大丈夫そうだね」
「何が」
「さあね?」
キサはそれ以上追及せず、ヒラヒラと手を振って医療室の奥へ戻っていった。
廊下に残された五人。
静かな静寂の中、ナギがセレンの横からニヤニヤと顔を覗き込む。
「セレン」
「何」
「今の『別に』は照れただろ」
「殺すよ」
「怖っ」
ソラトが声をあげて笑い、ヒヨリとフィリスも呆れつつ口元を緩める。
さっきまでは。
報告書に書かれた悲惨な事実に怒りを覚え、何も知らずにナナセを不安にさせていた自分たちへの後ろめたさで、五人の胸の奥は重く沈み込んでいた。
けれど、今は少し違う。
ナナセがどれほど酷い目に遭ってきたのか。
どれほどの秘められた力を持っているのか。
可哀想だと腫れ物に触るように扱う必要もなければ、その力を無理に引き出す必要もない。
過酷な過去から解き放たれ、いつか本人が「自分の意志で」力を貸してくれるまで。
焦らず、当たり前の日常の中で待てばいいのだと。
(……焦る必要はないか)
セレンは心の中でそっと呟きながら、静かな石畳の廊下を歩いていた。




