農民の芋
畑を見て回っていた時、農民の一人がぽつりと話した。
「この辺りには、ヤコンって芋があるんですよ」
ヤコン。
エドワルドはその名を聞いたことがなかった。
「ヤコン?」
「はい。根菜です」
農民はそう言った。
エドワルドは少し興味を持った。
「見たことがないな。この近くにあるのか?」
農民は頷いた。
「ありますよ。この辺りの山の端に少しだけ」
エドワルドはすぐに言った。
「それを見てみたい」
農民は少し驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。
「分かりました」
そうして、少し離れた畑の端まで案内された。そこにあったのは、背が高い草のような植物だった。
エドワルドは見上げる。
「……これがヤコンか」
葉は広く、少しだけザラついた手触りをしている。
見た目だけでは、芋には見えない。
「芋は土の中です」
農民がそう言い、鍬で少し土を掘る。
すると、土の中から細長い芋が顔を出した。
「……なるほど」
エドワルドはその芋を手に取った。
確かに芋に近い。
だが、じゃじゃ芋とは少し形が違う。
農民が説明する。
「これは生でも食べられます」
「ほう?」
「甘いんです」
「甘い?」
「ええ。煮ればホクホクになります」
エドワルドは興味深そうに芋を眺めた。
農民はさらに続ける。
「葉も使えます」
「葉?」
「乾燥させれば、お茶になります」
エドワルドの目が少しだけ細くなる。
「……それは便利だな」
食料にもなり、飲み物にもなる。
こういう作物は貴重だ。
「育てるのは難しいのか?」
農民は首を振る。
「いえ。そんなに難しくはありません」
「土も選びませんし」
エドワルドは頷いた。
「なら」
すぐに言った。
「この芋を植えよ」
農民達が顔を見合わせる。
「すぐに植え、育てろ」
農民は少し困った顔をした。
「それが……」
「どうした」
「この芋は、そのまま植えても出ないんです」
エドワルドが眉を上げる。
「何?」
農民は土の中をもう少し掘った。
すると芋の根元に、小さな塊がいくつも付いている。
「これです」
「これ?」
「球根です」
農民はそう呼んでいた。
「この球根から芽が出るんです」
「芋ではないのか」
「はい。芋は食べる部分です」
エドワルドはしばらくそれを見つめていた。
「……なるほど」
植物にも、いろいろな形がある。
種から育つもの。
芋から育つもの。
そして、このように球根から育つもの。
「こういう植物もあるのか」
エドワルドは真剣に話を聞いていた。
農民は少し戸惑った様子だった。
「……」
やがて農民が言った。
「不思議ですね」
「何がだ」
「領主様が、こんな話を熱心に聞くなんて」
エドワルドは少し笑った。
農民は続けた。
「この辺りじゃ」
「貴族様は、これの存在すら知らないと思います」
「そうなのか」
「ええ」
農民は肩をすくめた。
「農民が食べる物って扱いです」
つまり、貴族の食卓には並ばない。
だから知らない。
エドワルドは小さく唸った。
「……うーむ」
もしこういう作物を大量に育てていたら。
あの飢えは、少しは違ったのではないか。
完全に救えるわけではない。だが、多少は。
「……」
エドワルドはヤコンの葉を見つめた。
「面白いな」
農民に言う。
「この球根を集めろ。畑を使っていい」
農民が頷いた。
「分かりました」
エドワルドは立ち上がった。
「こういう物は」
少し笑う。
「覚えておく価値がある」
そしてもう一度、ヤコンの葉を見た。
農民の食べ物。
だが――もしかすると。
この町を救う作物になるかもしれない。




