最初の収穫
町の外に広がる田畑の一角に、人が集まっていた。
防壁の外。
物見櫓の見張りの下、整備された畑の列。
そこに、緑の葉が揺れていた。
エドワルドはその畑を眺めながら、静かに腕を組む。
「……ここまで来たか」
隣でレオンも畑を見渡した。
「ええ。見事なものですな」
今回の作物は二つ。
不断草と蕪だ。
どちらも成長が早く、土地を選ばない作物だ。
この町の田畑を復旧させた直後、エドワルドは領都から種を取り寄せた。
農民達は最初、半信半疑だった。
この土地は荒れている。
長く放置されていた。
土も弱っている。
だが――それでも育つ作物がある。
それが不断草と蕪だった。
そして結果は、今ここにある。
収穫だ。
「おお……」
農民の一人が蕪を抜き上げる。
丸く太った白い実が、土から姿を現した。
周囲から声が上がる。
「本当に出来てる……」
「こんな早く……」
「まだ種を蒔いて、そんなに経ってねえぞ」
農民達は驚きを隠せない。
この地方には、こういう作物が無かった。
ここえらで一般的なのは大麦と豆、ヤコンと呼ばれる根菜らしい。
収穫まで時間が掛かる。
この二つは違う。
「領主様」
農民の一人が蕪を持ってきた。
「本当に出来ました」
エドワルドはそれを受け取った。
重い。土の香りがする。
「……良い出来だ」
農民は笑った。
「正直、最初は疑ってました」
「この土地でこんなに早く育つなんて」
別の農民が言う。
「不断草も見てください」
畑の列には青い葉が広がっていた。
柔らかく、厚い葉。
これも食料になる。
しかも何度も収穫できる。
「この地方には無いらしい」
エドワルドは小さく言った。
「説明はしておいた」
最初は皆、怪しい顔をしていた。
本当に育つのか。
そんな顔だが今は違う。
収穫を目の前にすれば、疑いは消える。
農民達は笑っていた。
「いやあ……」
「領主様、すげえな」
「こんなの初めて見た」
レオンが横で小さく笑う。
「信頼がまた増えましたな」
エドワルドは畑を見渡した。
これは始まりに過ぎない。
「まだだ」
そう呟く。
「これだけでは足りない」
不断草と蕪は、あくまで早期の食料。
本命は別にある。
硬豆、じゃじゃ芋、黒麦
これらが育てばこの町の食料はかなり安定する。
エドワルドは土を軽く踏んだ。
「……」
まだ時間が掛かる。
季節もある。
土地も整えなければならない。
確実に進んでいる。
レオンが言った。
「この調子なら、秋にはかなり収穫出来ますな」
「そうなれば」
エドワルドは言う。
「この町も自立できる」
配給に頼らなくて済む。
輸送も減る。
食料が増えれば、人も増える。
町が回り始める。
農民達はすでに次の畑の話をしている。
「ここも耕すか?」
「いや、そっちの土の方がいい」
「水路を引いた方がいいな」
その姿を見て、エドワルドは少しだけ息を吐いた。
「……悪くない」
この町はまだ小さいが確実に生き始めている。
エドワルドは遠くの畑を見ながら呟いた。
「まだまだ先かもしれないがここでの生活は、安定に向かっている」
風が吹き、畑の葉が揺れた。
それは、この町にとって――
最初の実りだった。




