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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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名も無き騎士の墓

ふぅ……。


エドワルドは小さく息を吐いた。


あの名も無き騎士の騒動から、数日が経っていた。町の空気は、ようやく落ち着きを取り戻し始めている。


丘の上には、簡素な墓がひとつ。

木の標が立つだけの、小さな墓だ。


だが――


そこには、いつの間にか花が添えられていた。

誰が置いたのかは分からない。

最初は一本だけだった。

翌日には二本、三本と増え、今では小さな花束の様になっている。


エドワルドはしばらくその墓を眺めた。


「……」


名も分からない騎士。

それでも、ここまで走り抜けた。

背中に矢を受けながら。


そして最後は、この町に着く前に息絶えた。


町の者達は、その話を知っている。

だからだろう。忠義を果たせなかった、名も無き騎士。


故郷にも帰れず、異国の地に眠る男。

そんな彼に、同情しているのだ。


「……優しい連中だ」


エドワルドは小さく呟いた。


その時、丘の下から子供達の声が聞こえた。

振り向くと、例の黒い馬の周りに人だかりが出来ている。


「おーい!動いた!」


「すげぇ!」


「触っていいのか?」


黒い馬は落ち着いた様子で草を食べていた。

すっかり元気を取り戻している。


主人を亡くしたにも関わらず、ここまで走り抜けた馬。


その話は町中に広まり、今やちょっとした人気者になっていた。


「……まるでマスコットだな」


エドワルドが苦笑すると、横にいたレオンも笑う。


「ええ。子供達には特に人気です」


「兵達も餌をやりに来てますな」


確かに黒い馬がいるだけで、張り詰めた空気が少しだけ和らぐ。


この町は、平和ではない。

周囲には戦乱が広がっている。


この馬の姿を見ると、人は少しだけ笑う。


「……まあ、良いな」


エドワルドはそう言った。

張り詰めた空気が、ほんの少し緩む。

それは悪い事ではない。

むしろ、必要な事だ。


エドワルドは丘の上から町を見下ろした。


整備された防壁。巡回する兵。

市場には少しずつ人が増えている。


この町は、確実に形になり始めていた。


「……」


だが、時間があると考えてしまう。


エドワルドは空を見上げた。


「一体、この世界はどうなっているんだ?」


自分の知っている未来。

それとは、あまりにも違う。


王政は崩壊した。


領地は独立し始めている。


そして――戦。


「ラーデン領とモルガン領」


エドワルドは呟いた。

あの名も無き騎士。


あれが証拠だ。モルガン領の伝令。

あの距離を走り抜けたという事は、よほどの事態だったはずだ。


つまり――


戦は、もう始まっている。


「……間違いない」


問題は距離だ。


ここからラーデン領もモルガン領も、遠い。

普通の偵察でも危険な距離。


ましてや今は戦乱。


「長距離偵察か……」


エドワルドは腕を組む。

正直に言えば、自殺行為に近い。

途中で野盗に襲われる可能性もある。

敵兵に見つかれば、それで終わりだ。


「……それとも」


また少数精鋭か。以前の様に。

数人だけ送り込む。

それでも危険は変わらない。


エドワルドはため息を吐いた。


「ふぅ……」


空を見上げる。雲がゆっくり流れている。


「何が正しいのか……」


誰も答えない。守るべき町は、ここにある。

外の世界は動いている。


そして、その波は必ずここにも届く。


エドワルドは最後にもう一度、名も無き騎士の墓を見た。


「……お前は何を伝えに来たんだ?」


風が吹いた。丘の草が静かに揺れた。

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