門を通る者
隔離区画に収容していた者達について、医療兵から新たな報告が届いた。
エドワルドはその書状に目を通す。
「……不自然な体調悪化は無し、か」
発熱していた男も、数日で熱が下がったらしい。
発疹や咳など、疫病を疑う様な症状も確認されなかった。
「どうやら、ただの高熱だった様です」
医療兵のまとめにはそう記されていた。
「そうか……」
エドワルドは小さく息を吐いた。
最悪の事態では無かった。
それは間違いない。
「結果としては問題無し、か」
横でレオンが腕を組んだまま言う。
「運が良かった、とも言えますな」
「ああ」
もし疫病だったなら。
町の外で止められたのは幸運だった。
逆に言えば——
「町の中で発症していたら、どうなっていた?」
レオンは何も答えない。
答えは、二人とも分かっている。
「医療兵には、様子を見ながら解放させろ」
「よろしいのですか?」
「医療の判断は医療に任せる」
エドワルドは首を振った。
「流石に俺には判断は出来ない」
専門の者に任せるしかない。
だが、この件で一つだけ確かな事がある。
「……レオン」
「はい」
「この町は、もう小さな村ではない」
城壁の向こうには市場。
作業場。
倉庫。
難民宿舎。
人は増え続けている。
「確かに」
レオンも頷く。
「門番の連中も、顔を覚えるのが大変でしょうな」
今までは、「見た事がある顔かどうか」
それだけでも通用した。
だが、もう違う。
「人が増えれば、紛れ込む者も増える」
盗賊。
間者。
疫病。
どれも、門から入ってくる。
「……出入りを制度化するか」
エドワルドは静かに言った。
「制度、ですか」
「許可証だ」
町の出入りを管理する。
簡単な木札でも良い。
名前と滞在区画を書いたもの。
「持っている者だけ通す」
「無い者は?」
「門前で確認」
「理由が正当なら発行」
レオンは顎に手を当てた。
「なるほど……」
町が広がれば、顔だけでは管理出来ない。
制度があれば話は別だ。
「まあ、門番の負担は減るでしょうな」
「それだけじゃない」
エドワルドは言う。
「町の人間も守れる」
外から来た者が、どこに居るのか。
把握出来る様になる。
それは治安にも繋がる。
「問題は……」
レオンが少し笑った。
「面倒臭い、と言う者が出ますな」
「だろうな」
「慣れれば当たり前になる」
最初は反発があっても、制度は時間と共に定着する。
「今の内にやっておく」
町がさらに大きくなってからでは、
逆に混乱する。
「指示を出す」
エドワルドは机の上の紙を取った。
・町の出入りは許可制
・門で木札を発行
・滞在区画を登録
・無許可出入りは禁止
簡単な内容だが意味は大きい。
レオンが少しだけ笑った。
「町というより、城塞都市ですな」
「……そうかもしれんな」
エドワルドは窓の外を見た。
人が増えれば、守る物も増える。
そして守るには、管理が必要になる。
「秩序を作る」
それだけだ。
だがその秩序は、少しずつ町の形を変えていく。門の向こうでは、新しい櫓の骨組みが立ち始めていた。
町は守られている。
その代わりに——
門は、少しだけ重くなっていった。




