外へ広がる守り
徐々に、保護した者達の体力も回復してきた。
最初は立ち上がる事すら出来なかった者が、今では荷を運び。
壁にもたれかかっていた者が、畑を見て歩く様になった。
医療班からの報告でも、
「重篤者はほぼ回復段階に入っています」との事だった。
「……そうなると、だな」
人は、食べて寝ているだけではいずれ不安になる。
働きたい。
役に立ちたい。
何かをしたい。
それが正常な状態に戻った証でもある。
そして同時に——食料の消費量は増える。
「やはり、この町の田畑の復旧を急がないと不味いか」
現状、食料は備蓄と曙町からの供給に頼っている。
それは“持ちこたえている”だけであって、
“安定している”訳ではない。
ここで生産が始まらなければ、人口の増加と共に、いずれどこかで破綻する。
「となると……防御壁の外、か」
問題はそこだ。
防御壁内の空き地では、規模が足りない。
本格的な耕作地を確保するなら、どうしても外へ出る必要がある。
「壁を広げ過ぎれば、兵力が分散する……」
壁は長くなればなるほど、守るための人員が必要になる。
今は何とか持っているが、無理に拡張すれば、逆に穴を生む可能性もある。
「それとも……単独の櫓を建てるか?」
壁外に、監視用の拠点。
見張り台を兼ねた防衛拠点。
小規模な備蓄庫を持たせ、緊急時には避難所としても使える構造。
耕作地の近くにそれを配置すれば、野盗や小規模な襲撃にも対応出来る。
それも——
「兵力の分散には変わりない、か……」
悩む。
壁を広げても分散。
櫓を建てても分散。
結局は、“外へ出る”という時点で、リスクは避けられない。
「……なら」
悩んだ挙句、俺は決断した。
「防御壁外に、四箇所。物見櫓の建築を行う」
レオンが即座に反応する。
「四箇所、ですか?」
「ああ」
町を中心に、東西南北。
それぞれの耕作予定地の近くに配置する。
「単なる見張り台ではない」
指で配置図を示す。
「簡易な備蓄庫も併設させる。
食料、水、応急医療品。
最低でも三日間は持ちこたえられる規模だ」
「籠城前提、ですな」
「そうだ」
いざという時は、そこに退避し、本隊の到着まで時間を稼ぐ。
野盗程度ならば撃退も可能だろう。
「建築人員は?」
「公募する」
レオンが眉を上げた。
「賃金を出す」
「……ほう」
「参加した作業員には、日当を支払う」
食料ではなく貨幣で。
例の、裏金から見つけた資金を使う。
「それで……」
俺は小さく息を吐いた。
「経済も、回るだろう」
今のこの町は、配給が中心だ。
配られる食料。支給される衣類。
それでは、“自分で得る”という循環が生まれない。
賃金を支払い、それを市場で使わせる。
商人は売る。住民は買う。
そうして初めて、町は“生きる”。
「なるほどな……」
レオンが頷いた。
「仕事を与え、金を流し、消費させる」
「そういう事だ」
櫓の建築は、防衛の為。
同時に——経済の起点にもなる。
働いた者が、市場でパンを買う。
道具を買う。衣類を買う。
商人は利益を得て、さらに物資を持ち込む。
「そうなれば……」
俺は町の方を見た。
「次は、町の整備だな」
道路の補修。
排水溝の整備。
工房の増設。
やるべき事は山程ある。
「資金は、たっぷりある」
金はある。人もいる。
足りないのは、回す“仕組み”だけだ。
「まずは櫓からだ」
「了解しました」
レオンが一礼する。
町の外へ、新たな拠点が生まれる。
それは、守りの為であり。
そして、前へ進む為の一歩でもあった。




