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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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北の決断

執務室の窓から差し込む光が、やけに白く見えた。


領主――エドワルドの父は、机の上の一通の文を見つめたまま、しばらく動かなかった。


「……参ったな」


小さく呟く。


差出人は、北に位置する隣接領の領主。


古くから面識もあり、何度も国境警備の件で文を交わしてきた相手だ。

酒も酌み交わしたことがある。

愚痴も言い合った。


悪人ではない。

むしろ、現実的で慎重な男だ。


その男からの文。

内容は簡潔だった。


もはや我が領単独では維持は困難

庇護を願う必要とあらば、グレイス領の配下に入る


「……限界、か」


指で文面をなぞる。


王政崩壊後、各地は孤立。

不作、難民、流言。

兵は減り、備蓄は底をつき始める。


北は、もともと土地も痩せている。

兵力も少ない。


無視すれば――


「間違いなく崩れるな」


グレゴールが静かに言う。


「ええ」


父は頷く。


「難民が押し寄せるだけなら、まだいい」


だが、問題はそこではない。


「国境線に穴が空く」


そこが最悪だ。


北が崩れれば、隣国との間に“空白”が出来る。

そこを突かれれば――


「我が領だけで北西の線を守るのは、不可能だ」


はっきりと言い切る。

今でさえ二本の街道、築城、補給路、擬装村――

全てを総動員して、やっと均衡を保っている。


さらに戦線が伸びれば、兵は分散。

薄くなる。


「……受け入れますか」


グレゴールが問う。


父は椅子に深く腰掛け、天井を見上げた。

一領を丸ごと庇護に入れる。


それはつまり。


・兵の再配置

・補給の再設計

・統治の再構築


そして――


「政治的には、拡大だ」


王が居ない今。

勢力を広げる者は、やがて“中心”になる。

それを周囲がどう見るか。


「……だが」


父は文を畳んだ。


「守るために、守らせる」


これ以上、国境を薄くは出来ない。


「申し出を受ける」


静かに、しかし迷いなく告げた。


「北領はグレイスの庇護下に入れる」


グレゴールが一礼する。


「直ちに返書を?」


「ああ。条件は後だ。まずは安定だ」


そして小さく付け加える。


「……エドワルドにも知らせておけ」


「はい」


父は窓の外を見た。

北の空は、今日も曇っている。


「国が崩れれば、領が国になる」


誰も望んだ形ではない。

だが、選ばねばならない。


「……また一つ、背負うか」


守るために。背負うものが、また増えた。

決断した以上、迷っている時間は無い。


「グレゴール」


「はっ」


「倉庫を開けろ。可能な限りの荷馬車をかき集めさせよ」


一瞬だけ、グレゴールの眉が動く。


「……北へ、でございますな」


「ああ」


即答だった。


「食料を積め。干し肉、乾燥穀物、豆、塩。可能な限りだ」


「こちらの備蓄は――」


「分かっておる」


父は低く言う。


「だが北が崩れれば、もっと削られる」


今、渡すか、後で奪われるか。

選ぶだけの話だ。


城内は一気に慌ただしくなった。


馬を集めろ。

車輪を点検しろ。

袋を二重に縛れ。

塩は湿らせるな。


倉庫の扉が開かれ、兵と使用人が慌ただしく動く。積み上げられる袋。軋む荷馬車。


「……久々に動くな」


父は小さく笑った。


「領主様、自ら?」


近衛が驚いた顔をする。


「ああ」


父はマントを羽織った。


「文だけで済む話ではない」


北の領主は、限界まで踏ん張った末に頭を下げたのだ。


ならば――


「私が行く」


言葉に重みを持たせるために。

覚悟を示すために。


「私が居ない間は、クラウスを代行とする」


すでに呼び出されていたクラウスが一歩前に出る。


「承知しました」


落ち着いた声。


「西の警戒線は維持。築城二箇所は常時半数待機。商人の動きも継続監視します」


「任せる」


父は息子の目を見る。


「軽率に動くな。だが、鈍るな」


「心得ております」


親子の会話は、短い。だが十分だった。

やがて、城門前に十数台の荷馬車が並ぶ。

袋を山のように積み。武装した護衛が囲む。


父は馬に跨った。


「出るぞ」


車輪が軋み、蹄が石を叩く。


北へ。


救援か。統合か。

それとも、新たな責任の始まりか。


誰にも分からない。


確かなのは――


守る側であることを選び続けている、ということだった。

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