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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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遠回りの接触

数日後。


相変わらず商人達は、少しずつだが人を連れて来ている。

「保護民」と言うには、どこか匂いの違う連中も混ざっているが。


荷馬車から降りる顔を、俺は遠目に眺めた。


怯えた目。

計算している目。

何かを隠している目。


「……身元は?」


「一応、洗っております」


文官が答える。


「ですが、口裏を合わせられている可能性は否定出来ません」


だろうな。


「情報隊の方は?」


「編成は進んでおります。団員と女性兵、さらに保護民から数名を選抜しました」


「良い」


小さく頷く。


まだ完全ではない。

だが組織化が完成すれば、出入りの把握は格段に楽になる。


人の流れを制する者が、町を制する。


俺はもう、甘くは見ない。

ふと、窓の外を見る。


煙は安定している。

市場も動いている。

砦も健在。


だが——


「……別物だな」


俺の知っている未来とは。


王政はまだ機能していた。

俺は防戦に追われていた。

今は違う。


王都は滅び、隣国は侵攻し俺は、逆に村を焼いた。


まるで別の世界だ。


「……気を引き締めねばな」


成功が一番危険だ。


「他の元有力貴族の地域はどうなっておる?」


唐突に問う。


レオンが地図を広げる。


「元王都周辺には、二つほど大きな領地がございました」


「今は?」


「不明です。王都があの有様ですから、無傷とは思えません」


地図に指を滑らせる。


「ここを占領……いや、確保しても」


最短距離を辿れば——


「元王都を通らねば接触出来ぬ」


瓦礫。死体。疫病の温床。


「危険だな」


「はい。今は避けるべきかと」


「遠回りなら?」


「一箇所のみ接触可能です。ただし……」


「距離があるか」


「かなり」


沈黙。


遠回りは時間がかかるが安全。

王都を通るのは早いが危険。

どちらも利があり、毒がある。


「……偵察を出すか」


レオンが目を細める。


「接触目的で?」


「いや」


首を振る。


「状況確認だ」


敵か味方か。健在か崩壊か。

今の世界は、知らぬことが多すぎる。


「遠回りで一度、偵察に出す」


「承知」


「交戦は避けろ。見るだけだ」


「はい」


地図を見下ろす。


王が消えた世界。

貴族は各地で孤立しているはずだ。


味方になれば強い。

敵になれば厄介だ。


「……今はまだ、選ぶ段階だな」


攻めるか。結ぶか。潰すか。


その判断は——情報が揃ってからだ。

窓の外では、また新しい荷馬車が到着していた。


人は増える。町は広がる。

その分、影も増えていく。


「……早めに手を打たねばな」


守るために。

俺は、さらに網を張ろうとしていた。


エドワルドは、地図から目を上げた。

迷いは、無い。


「レオン!」


「はっ」


「遠回りで小数の偵察隊を組め」


空気が少し張り詰める。


「人数は?」


「最小限だ。速さと隠密を優先する」


レオンは静かに頷いた。


「目的は?」


エドワルドは、指で机を三度叩いた。


「第1目標は——観察」


「はっ」


「兵数、町の状態、旗、統率の有無。まずは見るだけだ」


「第2目標は——非攻戦」


レオンがわずかに口元を歪める。


「交戦を避ける、と」


「そうだ。挑発されても乗るな。こちらから火は付けるな」


今はまだ、火種を増やす時ではない。


「第3目標は——」


一拍置く。


「上記を判断した上での接触だ。敵か味方か、曖昧なまま帰るな」


レオンの目が細まる。


「……敵味方をはっきりさせる、と」


「ああ」


曖昧さが一番危険だ。

味方のふりをした敵。敵のふりをした味方。

今の世界は、境界が無い。


「判断が難しい場合は?」


「撤退だ」


即答する。


「無理に結論を出すな。命を優先しろ」


「承知」


レオンは胸に手を当てた。


「精鋭を選抜します。三日以内に出立可能です」


「頼む」


そして、最後に付け加える。


「その後は様子を聞いた上で判断する」


今はまだ、駒を置く段階だ。


「拙速は避ける。だが機を逃すな」


「はっ!」


レオンが出て行く。


執務室に、再び静寂が落ちた。

エドワルドは、地図をじっと見つめる。


王都の灰。隣国の罠。

焼いた村。築いた町。


「……世界が小さくなったな」


王がいた頃は、上だけを見ていれば良かった。


今は違う。


横も、後ろも、下も。

全方位を見なければ生き残れない。


「敵味方をはっきりさせる、か……」


小さく呟く。

本当に怖いのは、外の敵ではない。


「……内側だな」


人が増え、町が広がる。

その中に混ざる影。

だからこそ。

早く、網を完成させる必要がある。


守るために。

エドワルドは、静かに拳を握った。

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