表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

289/364

余燼のあと

翌朝——いや、もう昼近いか。


エドワルドはようやく目を覚ました。

鎧を脱いだまま横になったせいか、身体が重い。


だが、頭は妙に冴えていた。


外から聞こえる足音と指示の声。

砦は既に動き出している。


「兄上」


外へ出ると、クラウスが見張り台の下で部下に指示を出していた。


「起きたか」


振り返る兄の顔は、疲労はあるが落ち着いている。


「今朝、偵察を出した。敵は完全に撤収——いや、敗走した様だ」


「……それは良かった」


胸の奥の張り詰めた糸が、少しだけ緩む。


「ああ。こちらもそれに合わせて負傷者を後方へ輸送し終わった所だ。領都経由で南町へ回す」


「手際がいいな」


「戦は勝って終わりじゃないからな」


クラウスは肩をすくめた。


砦の周囲では、矢の回収、壊れた柵の補修、罠の再設置が始まっている。


勝った——とは言っても、油断はない。


「これで一先ずは……ってとこかな?」


エドワルドが言うと、兄は小さく頷いた。


「そうだな。まあもう少し警戒するがな。あれだけやられれば、向こうもすぐには動けまい」


一瞬、視線がぶつかる。


「お前は、その足で父上へ報告がてら戻れ」


「……」


「新たな所でもやる事はあるのだろ?」


曙町。元領主館の町。

そして通貨制度、市場、治安再編。


やる事は山ほどある。


「まあ、そうだね」


エドワルドは軽く笑った。


「そうするとするよ」


クラウスは、少しだけ真顔になった。


「……無理はするなよ」


「兄上が言う?」


「私は無茶はするが、無理はしない」


「同じだろ」


「違う」


短いやり取り。だが温度はある。


「気をつけて戻れよ」


「解ってますよ」


エドワルドは馬に跨った。


砦の門が開く。


背後では、まだ戦の匂いが残っている。

前方には、再建と内政の山。


守れた。


少なくとも今回は。


だが——


守るためにやった事の重さは、消えない。

馬を進めながら、エドワルドは空を見上げた。


青い。何事も無かったかのように。


「……まだ終わってない」


戦も。内政も。そして、自分自身との折り合いも。


砦は遠ざかる。

新たな歯車は、また回り始めていた。



馬を飛ばし、グレイス領の領主館へ戻った頃には、夕暮れが迫っていた。


門番が慌てて道を開ける。


「エドワルド様、ご帰還!」


そのまま執務室へ通される。


扉を叩く。


「父上、ご報告に参りました」


「うむ。ご苦労」


低く落ち着いた声。

中へ入ると、父は書類から顔を上げた。


そして——


じっと、エドワルドの顔を見つめた。


「……随分と顔つきが変わったな?」


一瞬、言葉が詰まる。


「そうですか?」


父は椅子にもたれ、小さく鼻で笑った。


「まあいい。男の顔だ」


軽い言い方だったが、その視線は鋭い。

エドワルドは目を逸らさなかった。

しかし内側では、何かを見透かされたような感覚があった。


「しかし……随分と無理をした様だな?」


声色が少しだけ柔らぐ。


「守る為には仕方ありません」


即答だった。

父は、わずかに沈黙した。


「……そうだな」


短く、しかし重い一言。


「助かった」


その言葉に、胸の奥がわずかに震えた。

褒められた訳でも、称えられた訳でもない。


ただ——


“助かった”。


領主としての言葉。父としての言葉。

両方が混じっていた。


「明日の朝、戻るのか?」


「そうですね。まだ不安定ですから。元領主館町まで戻ります」


「解った」


それだけだった。

だが、父は最後に付け加えた。


「……エドワルド」


「はい」


「守る為に必要な事はある。だが、守るという言葉は便利だ」


一瞬、空気が止まる。


「自分にとって都合の良い行為まで、守る為だと飲み込んでしまう」


視線が真っ直ぐ刺さる。


「そこだけは、間違えるな」


エドワルドは、わずかに目を伏せた。


「……肝に銘じます」


父は頷いた。


「行け。休め」


執務室を出た後、廊下に立ち尽くす。

顔つきが変わった。


男の顔。守る為。都合の良い行為。

ゆっくりと拳を握る。


「……俺は、守っている」


そう自分に言い聞かせる。

だが、胸の奥に小さな違和感が残ったままだった。


翌朝、再び前線へ向かう。

戦場と内政の狭間へ。


その足取りは、以前よりも迷いが少なかった。


そして——


確実に、重くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ