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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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想定内の地獄

西街道・第一罠地帯から数刻後。


「くそっ……!」


負傷兵を抱えながら、隣国騎兵たちは後退していた。


脚を撃ち抜かれた馬。

落とし穴に落ちた仲間。

姿の見えない敵。


「ふざけるな……正面から出てこい……!」


誰かが吐き捨てる。


誇り高い騎兵にとって、

姿も見えぬ相手に削られるのは屈辱以外の何物でもなかった。


やがて本隊と合流。


歩兵を含む百名規模の部隊長が、報告を受ける。


「……森に伏兵だと?」


「はっ! 数は不明! 姿も見えません!」


「矢と落とし穴のみで削られました!」


部隊長は舌打ちした。


「小賢しい真似を……」


地図を見る。


「回り道は?」


「ありません。街道以外は深い森です。馬は通れません」


「……なら正面突破だ」


顔を上げる。


「森を焼け」


部下たちが顔を見合わせる。


「焼き払えば伏兵も炙り出せる」


「それに、どうせ敵の領地だ。遠慮はいらん」


松明が配られる。

森の端に火が放たれる。


パチ……パチ……


乾いた枝葉が燃え始めた。


「これで隠れても無駄だ」


「進め!」


再び進軍開始。


土煙。炎。怒号。


その様子を——


少し奥の高台から、クラウスは眺めていた。


「……焼きますよねぇ、やっぱり」


副官が苦笑する。


「想定通りで?」


「ええ」


即答。


「想定内です」


当然のように言った。


「正面から嫌がらせされたら、次は“力技”に出る」


「人間の思考は単純です」


ニヤリ。


「だから仕込みやすい」


副官が地図を指す。


「第二罠地帯、もうすぐです」


「ええ」


クラウスは腕を組んだ。


「本番はここからですよ」


敵軍は森を焼きながら前進していた。

煙が立ちこめる。

視界が悪い。


「伏兵は出てこないぞ!」


「逃げたか!」


士気が少し戻る。


「やはり小勢だ!」


その時、先頭の歩兵が叫んだ。


「地面が……柔らか——」


ズボッ!!


「うわあああああ!?」


地面が崩落。

十数人まとめて落ちる。


「なっ!?」


そこは巨大な落とし穴だった。


しかも——


「杭だ!!」


底には削った木杭。


貫かれる脚、悲鳴。


「医療班!」


「くそ、また罠か!」


慌てて周囲を確認。


だが——


次の瞬間。


ガキン!!


「なっ!?」


後方の兵が転ぶ。


「何だ!?」


「足が……!」


地面に張られた細い縄。

見えない高さに張られた転倒索。

将棋倒し。

混乱。


さらに。


ドンッ! ドンッ!


左右からクロスボウ。


「ぐあっ!」


「また脚だ!」


「どこからだ!?」


煙と森で姿が見えない。


「姿を見せろぉぉ!」


叫びが虚しく響くだけ。


進めば落ちる。止まれば撃たれる。

燃やせば煙で見えない。


地獄だった。


森の奥。


草と枝を被った兵たちが、淡々と再装填している。


クラウスが静かに言う。


「……いいですね」


「実にいい」


副官が呆れ顔。


「楽しそうですね」


「楽しいですよ」


即答。


「真正面から戦うより、よほど効率的だ」


遠くで、敵兵が怒鳴り散らしている。


「あれを見てください」


指差す。


「もう隊列が崩壊してる」


確かに。


百名規模だった部隊は、既に統制を失い、バラバラ。


「これが“遅滞”です」


クラウスは淡々と言った。


「勝つ必要はない」


「進ませなければいい」


にやり。


「時間は、こちらの味方ですから」


副官が小さく笑う。


「領主様の文、意味なかったですね」


「ええ」


肩をすくめる。


「父上は心配性なんです」


遠く。


敵軍はついに後退を始めた。

怒号と共に。


「……さて」


クラウスは背を向けた。


「第三罠地帯に移動しますか」


「まだやるんですか?」


「当然でしょう」


振り返り、悪戯っぽく笑う。


「せっかく来てくれたんです」


「歓迎は、最後までしないと」


森が、静かに揺れた。敵にとって——


この街道はもう、ただの道ではない。


“生き物”だった。


踏み入れた者を、確実に削る。

牙を持った、森そのものだった。

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― 新着の感想 ―
兄上がこれまで出番無かった反動なのかノリノリだ~
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