門と罰
翌朝。
町は、妙に静かだった。
昨日の騒ぎが嘘のように。
だが違う。
静かなのは——皆が“学習した”からだ。
騒げば、斬られる。
奪えば、殺される。
この町はもう、「助けてくれる場所」ではない。
「秩序に従えば生きられる場所」になった。
執務室で机の上に紙を広げる。
エドワルドは一晩、ほとんど眠っていない。
ペンを走らせる。
カリカリカリ……
「……レオン」
「はっ」
「昨日で分かった」
顔を上げずに言う。
「感情で運営してたら、町が壊れる」
「……ですな」
「だから決める。ルールにする」
レオンが黙って頷く。
その日の昼の町の中央広場に、兵、住民、保護民、全員を集めた。
ざわめき。
エドワルドが前に立つ。
静まり返る。
「聞け」
低い声。よく通る。
「これより、この町の規則を定める」
紙を開く。
「一、略奪・窃盗。即時拘束。状況により労役、または処刑」
ざわり。
「一、倉庫・食料庫への無断侵入。処刑」
空気が凍る。
「一、武装したまま町に入ろうとした者。拘束」
「一、暴動・扇動。処刑」
誰も声を出さない。
重い。あまりにも重い。
「だが」
一拍。
「従う者は守る」
顔を上げる。
「飯は出す。寝床も出す。仕事も与える」
「ここは生きる場所だ」
「だが——好き勝手出来る場所じゃない」
視線を全員に向ける。
「守るためだ」
嘘じゃない。本心だ。
だから余計に重い。
「異論は認めん」
誰も手を上げない。
上げられない。
その瞬間。
この町は“避難所”から“統治領”に変わった。
「門も変える」
エドワルドはレオンを見る。
「検問所を三重にしろ」
「三重?」
「外門・中門・内門」
指で図を描く。
「外門で武装解除」
「中門で身元確認」
「内門で医療・健康確認」
「怪しい奴は?」
「外に隔離」
即答。
「……容赦ないですな」
「中に入れて暴れられる方が困る」
「確かに」
「あと」
一枚渡す。
「入場札だ」
木札。番号入り。
「これを持ってない奴は住民扱いしない」
「出入り管理ですか」
「ああ。誰がどこに居るか把握する」
「……軍隊の駐屯地みたいですな」
少しだけ、笑う。
「もう、そうだろ?」
レオンも苦笑した。
その日の夕方、門前早速、検問が始まる。
「武器置け」
「次」
「名前は?」
「家族は何人だ」
「熱は?」
手際が良い。
昨日までの混乱が嘘みたいだ。
秩序が生まれている。
だが。
泣いている子供に追い返される若者。
外で座り込む老人。
「……」
エドワルドはそれを見る。
胸が少し痛む。
だが。
目を逸らさない。
「……全員は無理だ」
小さく呟く。
「守れる範囲だけ守る」
それが現実。
その夜。
見張り台の上で町を見下ろす。
松明が整然と並ぶ。
巡回兵。静かな炊煙。
昨日より。明らかに安定している。
「……皮肉だな」
ぽつり。
「優しくした時より、今の方が平和だ」
レオンが隣に立つ。
「それが現実です」
「……だな」
少し沈黙。
そしてレオンが言った。
「エドワルド様」
「ん?」
「顔が、領主の顔になりましたな」
「……嬉しくない褒め言葉だ」
苦笑する。
でも。
否定はしなかった。
もう自分でも分かっている。
昨日までの自分じゃない。
守るためなら。
罰も、線引きも、処刑も。
躊躇わない。
「……これでいい」
自分に言い聞かせる。
夜風が冷たいが町は静かだった。
守られている静寂。
その代償として。
エドワルドの中の何かが、また少しだけ削れていた。




