表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

266/398

命綱を断つ影

朝、いつも通りだった。

工房区からは鉄を打つ音。

市場からは呼び声。

荷馬車が曙町との街道を行き来し、

兵たちは門の上であくびをしている。


「……平和だな」


レオンが呟いた。


「気味が悪いくらいです」


「同感だ」


エドワルドも頷く。

ここ数日、野盗の姿すら見ない。

偵察報告も異常なし。補給も順調。


順調すぎる。


「……嵐の前ってやつか?」


その時だった。


カン!カン!カン!


見張り台の鐘。しかも連打。


異常事態。


「報告!」


兵が転がるように駆け込んできた。


「街道方面!補給隊が戻ってきません!」


「何?」


「予定時刻を大幅に過ぎております!」


空気が、一瞬で凍った。


「……場所は?」


「中間地点の林付近です!」


レオンの顔が変わる。


「嫌な場所ですな」


「伏撃向きか」


「はい」


一本道。両脇は森。隠れるには最高。


「偵察出せ」


「既に!」


数分後に息を切らした斥候が戻ってきた。

その顔で——察した。


「……やられました」


「状況は」


「荷馬車三台、焼失」


「護衛兵、数名死亡」


「物資は……ほぼ奪われています」


沈黙。エドワルドは静かに目を閉じた。


「……誰だ」


「盗賊と思われますが……」


「それだけではありません」


「何?」


「足跡が多すぎます」


「多すぎる?」


「百……いえ、二百以上」


「は?」


レオンが眉をひそめる。


「盗賊の数じゃない」


「はい」


斥候が続ける。


「女や子供の足跡も混ざっています」


「……難民、か」


嫌な予感が現実になる。


「この町の噂が広がっているようです」


「“食料がある町”」


「“守ってくれる町”」


「“奪えば生き延びられる町”」


「……」


誰かが、小さく舌打ちした。

助けた。救った。噂が広がった。


その結果。


「……群がってきた、か」


エドワルドの声は低かった。



さらに報告。


「北西でも小規模襲撃!」


「門前に難民が数十人集結!」


止まらない。


「……一気に来たな」


レオンが苦笑する。


「町が“金鉱”に見えてるんでしょう」


商人。食料。物資。兵。


今この町は——


“持っている側”だ。


持っている者は、狙われる。

当たり前の理屈。


「盗賊だけじゃありません」


グレゴールが言う。


「飢えた連中も混ざっています」


「統制が無い分、余計に厄介です」


盗賊なら交渉も出来る。


だが。


飢えた民は違う。理屈が通じない。

生きるために襲う。


それだけ。


「……最悪だな」


エドワルドが吐き捨てる。

守るために作った町が守った民に狙われる。

皮肉にもほどがある。



「街道は?」


「既に通行困難です」


「林に倒木」


「簡易柵」


「意図的に塞がれています」


完全に理解した。


「……兵站路を潰しに来たな」


「はい」


レオンが真顔で頷く。


「補給が止まれば、この町は終わりです」


三日も持たない。

食料はあるが、永遠じゃない。


塩。薬。矢。全部、曙町頼み。

道が死ねば——町も死ぬ。


「狙いは正確すぎる」


「偶然じゃありませんな」


誰かが裏で煽っている可能性すらある。


「……面倒な事になった」


エドワルドは剣の柄を握る。

もう、救助だけじゃない。


これは。


「戦だな」


はっきり言葉にした。



「レオン」


「はい」


「兵を三隊に分けろ」


「街道奪還隊」


「町防衛隊」


「門前整理隊」


「整理……?」


「難民を選別する」


冷たい声だった。


「武装してる奴は拘束」


「暴れる奴は叩き出せ」


「従う奴だけ入れろ」


「……」


レオンは一瞬だけ目を細めた。

だが何も言わない。


「甘く見た」


エドワルドは小さく呟く。


「助ければ、皆味方になると」


そんな訳がない。飢えれば。

人は簡単に牙を剥く。


「……守るってのは」


誰に聞かせるでもなく。


「選ぶ事だな」


全員は救えない。もう、それを理解してしまった。


鐘が再び鳴る。


兵が走り、市場が閉まり、門が閉じる。

前線都市は。


初めて本当の意味で——戦時体制に入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
情報の速さから商人が絡んでいそうですね。黒幕と何らかの関係がありそう。
>>奪えば生き延びられる町 もう生き延びられる時間は終わりですね……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ