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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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金と荷馬車と生き延びる力

元領主館の町の外れ。

見張り台の鐘が、短く三度鳴った。

敵襲ではない。だが、異常接近の合図。


「街道側!車列確認!複数!」


「……野盗か?」


レオンが目を細める。

しかしすぐに首を振った。


「違いますな。動きが遅い」


「遅い?」


「“死にたくない商人”の進み方です」


思わず苦笑が漏れた。


ほどなくして、土煙の向こうから現れたのは――荷馬車の列だった。


十数台。


袋、樽、木箱を山のように積み、武装した護衛が周囲を固めている。

完全に「生き延び慣れた商隊」の構え。


「……よく来たな」


正直、来ないと思っていた。

王都崩壊。街道荒廃。野盗多発。


普通の商人なら、隠れる。

だが先頭の男が馬を降り、深々と頭を下げた。


「お久しぶりでございますな、エドワルド様」


「……マルクスか」


「はい。まだ生きております」


図太い笑みだった。


「商売上がったりじゃなかったのか?」


「ええ、上がりました」


即答。


「なので、上がった先を変えに来ました」


「……なるほどな」


王都が死んだ。

つまり、商人にとっての“市場”が消えた。


「次の市場をここに作るつもりか」


「流石でございます」


彼は周囲を見回す。

人がいる。煙がある。働く音がある。


「人が増えている町には、必ず金が動きます」


それが商人の勘なのだろう。


「何を持ってきた?」


「穀物、塩、干し肉、布、釘、農具、油、鍋……あと少々の酒」


「酒は没収するぞ」


「それだけはご勘弁を」


レオンが吹き出した。

兵が荷を確認する。

本物だ。しかも量が多い。

喉から手が出るほど欲しい物資ばかりだった。


「代金は?」


「金でも物資でも。ですが……」


商人は少し声を落とす。


「出来れば“継続”を」


「継続?」


「定期的に往復出来れば、命を賭ける価値があります」


つまり。


「この町を拠点にしたい、か」


「はい。市場にして頂ければ」


エドワルドは少し考えた後、あっさり言った。


「空き区画を使え。店を出せ」


「……よろしいので?」


「税は軽くする」


商人の目が輝く。


「その代わり」


一歩近付く。


「情報を寄越せ。王都、他領、街道、全部だ」


数秒の沈黙。


そして。


「……承知しました。我ら商人、耳と口も商品でございます」


レオンが小声で囁く。


「味方にすると便利ですな」


「ああ」


「敵に回すと最悪ですが」


「だから味方にする」


その日のうちに広場に布が張られ、樽が並び、鍋の匂いが立ち上る。


保護民が集まる。


「塩だ……」


「布がある……」


「鍋……久しぶりだ」


小さな歓声が戦場だった場所に。

初めて“生活の音”が戻った。

エドワルドはその光景を見て、ふっと息を吐く。


「……これだな」


「何がです?」


「町ってやつだ」


剣でも城でもないしまず必要なのは。


「飯と物資だ」


煙が上がり、笑い声が混ざる。

金が動き始める。

ここはもう前線基地じゃない。


「……国だな」


王が死んだ世界で小さな町が、経済で立ち上がろうとしていた。


商人達が店を広げて三日。


町の空気は、明らかに変わった。


鍋の匂いに布を叩く音。

値段交渉の怒鳴り声。


「安くしろ!」


「これでも赤字だ!」


そんなやり取りすら、どこか懐かしい。

戦場でも避難所でもない。


“町”の音だ。


「……悪くないな」


エドワルドは広場を眺めながら呟いた。

レオンも腕を組んで頷く。


「人が騒いでるってのは、生きてる証拠ですからな」


その時だった。


「離せ! 俺のだ!」


「盗人が!」


怒号。人だかりが出来る。


「……始まったか」


レオンがため息を吐く。

二人で近付くと。

痩せた男が、干し肉の袋を抱えて地面に押さえ付けられていた。


商人が怒鳴っている。


「金を払ってない! 盗みだ!」


「ち、違う! 後で払うつもりだった!」


「後で払う奴は全員逃げるんだよ!」


周囲の空気が、ピリつく。

保護民だ。

まだ働けていない連中は金が無い。


だが腹は減る。


起こるべくして起きた。


「……どうします?」


レオンが小声で聞く。

甘くすれば、盗みが増えるし厳しくすれば、反発が出る。

どっちに転んでも火種。

エドワルドは、ゆっくり男の前に立った。


「名前は」


「……っ、トーマス……」


「家族は」


「子供が二人……」


商人が口を挟む。


「ですが盗みは盗みです!」


「分かってる」


短く答える。

そして周囲全員に聞こえる声で言った。


「この町は“奪う町”じゃない」


静まる。


「欲しけりゃ働け」


男を睨む。


「勝手に持っていくな」


そして商人に向く。


「代金は俺が払う」


「え?」


「だが」


トーマスを指差す。


「明日から労働だ。倉庫運び三日間。無償だ」


「……!」


「それでチャラだ」


周囲がざわつく。

殺さないし追い出さない。

だがタダでもない。


「ここは施しの町じゃない」


エドワルドの声が低く響く。


「生きたければ、働け」


「働く気がある奴は守る」


「奪う奴は、切る」


空気が一気に引き締まった。


商人が小さく笑う。


「……分かりやすいですな」


「そうか?」


「ええ。“商売が出来る町”です」


つまり、秩序がある町。

それが商人にとって一番重要だ。

男は頭を地面に擦り付けた。


「……働きます」


「よし」


エドワルドは背を向ける。


「次は許さん」


人だかりがゆっくり解けていく。

レオンが横で呟いた。


「優しいのか、怖いのか分かりませんな」


「どっちでもいい」


「え?」


「守れる方でいい」


広場ではまた値段交渉が始まっていた。

喧嘩もするだろうし揉めもする。


だが、それでも。


「……町だな」


今度は、確信を持って言えた。

ここはもう。

ただの拠点じゃない。

人が、生きようとしている場所だ。

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