守る刃
朝霧の中。
ゆっくりと近付いてくる荷馬車。
ギシ……ギシ……と車輪が鳴る。
護衛は四人。
粗雑な鎧に血のこびり付いた剣。
明らかに野盗崩れ。
そして荷台。
縄で縛られた三人の子供で口も布で塞がれている。
「……胸糞悪いな」
レオンが吐き捨てた。
エドワルドは何も言わない。
ただ、目だけが冷えている。
「距離は?」
「クロスボウ射程内、あと少し」
「……よし」
短く命じる。
「囲め」
静かに音を立てずに、兵が散開する。
屋根の上。路地の影。柵の裏。
完全包囲。
荷馬車は、まだ気付いていない。
野盗の一人が笑っている。
「このガキ、売ればパン十個にはなるぞ」
「いや、女の方が高いだろ」
「ぎゃはは」
——その瞬間。
「撃て」
ボスッ!
鈍い音。
一本。
クロスボウの矢が男の太腿を貫いた。
「ぎゃああああ!?」
「なっ!?敵——」
二本目。
喉。
三本目。
肩。
四本目。
胸。
四人。
十秒も掛からなかった。
悲鳴すら途中で途切れる。
沈黙。
レオンが呟く。
「……終わりですな」
「当然だ」
エドワルドは歩き出し荷馬車へ。
縄を切るが子供たちは震えている。
目が怯えきっている。
「……もう大丈夫だ」
なるべく低い声で言う。
「助けに来た」
少女が、恐る恐る顔を上げる。
「……ほんと?」
「ああ」
水袋を渡すしパンも。
子供は泣きながらかじりついた。
その姿を見て胸の奥が、少しだけ軽くなる。
——間に合った。
まだ、間に合う。
ふと視線を感じ、振り返ると兵達。
全員が。野盗の死体と。
矢だらけの亡骸と血の地面と。
そして。
命令一つで四人を即座に殺したエドワルドを見ていた。
誰も声を出さない。
ただ。
静かに道を開ける。
無意識に。
「……」
まただ。距離。
レオンが横に並ぶ。
小声で。
「……感謝と恐怖は、だいたいセットです」
「慰めか?」
「現実です」
苦笑。
「ですが」
レオンは続ける。
「今助けたガキどもは、一生エドワルド様の味方ですよ」
子供たちを見ると必死にパンを食べている。
涙を流しながら。
「……それで十分だ」
ぽつり。
「全員は救えない」
剣を納める。
「救えた奴が、生きてりゃいい」
レオンは、少しだけ目を細めた。
「……どんどん、領主らしくなりますな」
「嬉しくないな、それ」
「はは」
小さな笑い声。
町の空気は確実に変わっていた。
優しい領主ではない。
守るためなら、即座に殺す領主。
——それが。
今のエドワルドだった。




