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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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守るための重さ

元王都から帰還して、数日。

拠点の空気は、少しだけ柔らいでいた。


保護した数十名は、まだ全員が歩き回れる訳ではないが、顔色は明らかに良くなっている。


無理はさせない。

寝かせる。食べさせる。温める。


それだけだ。


それだけで、人は戻ってくる。


「……焦らなくていい」


医療係にそう伝え、エドワルドはゆっくりと見回りをしていた。

簡易の寝台に横たわる老人。

湯気の立つ椀を大事そうに抱える女。


そして——


子供達。もう外を走り回っている。


「こら!安静だって言っただろ!」


兵に怒鳴られながらも笑って逃げる。

その笑い声に、思わず口元が緩んだ。


「……回復、早いな」


「子供は強いですからな」


隣でレオンが言う。


「昨日まで死にかけてたとは思えません」


「……それでいい」


小さく頷く。

この光景のために、俺たちは動いている。

そう思えた。


——その時。


バタバタと駆け足。


「エドワルド様!」


警備兵だ。


「どうした」


「盗賊で捕えていた二名が……逃走しました」


「……は?」


「足枷に錘を付けたままです」


思わず眉をひそめる。


「逃げ切れる訳がないだろ」


「はい。数百メートル先で転倒、確保しました」


「……連れて来い」


ため息が漏れた。余計な仕事を増やしやがって。


拠点の外。

捕獲地点。


足枷に重りを付けたまま、二人の男が地面に座らされていた。


息を荒げている。

泥だらけだ。


「……何故逃げる?」


静かに問う。


「飯は不服か?」


沈黙。


「寝床は?」


沈黙。


「殺されない代わりに労働。それで納得したはずだ」


ようやく一人が、絞り出す。


「……自由が、欲しい」


「……は?」


思わず笑いそうになった。

乾いた笑いだ。


「お前らの“自由”ってのは何だ?」


睨みつける。


「村を襲って奪うことか?女を攫うことか?

殺すことか?」


黙る。


「事実は変わらん。犯罪者だ。本来なら死刑だ」


一歩、近付く。


「それを“生かして”やってるんだぞ?」


それでも二人は目を逸らした。

反省でも感謝でもない。


ただ。


「縛られたくない」


そんな顔。


——ああ。理解してない。


何も。


「……穴を掘れ」


「……は?」


「掘れ」


短く命じる。


足枷のまま、スコップを渡す。

二人は渋々掘り始めた。


ザッ……ザッ……


土を掻く音。しばらくして。

二つの穴。十分な深さ。


二人は汗だくでこちらを見る。


「……掘ったぞ」「早く戻せ」


そんな顔だ。


まるで罰を“作業”だと思っている。


その瞬間。


胸の奥が、すっと冷えた。


「……分かってないな」


ぽつりと漏れる。


「自分達が何をしたか」


剣を抜く。

一人が顔を上げる。


「え?」


次の瞬間。


——ザン。


首が落ちた。血が土に染みる。

もう一人が固まる。


「な、なんで……」


そして背を向け、逃げ出した。


「……はぁ」


クロスボウを取る。


引く。狙う。撃つ。


ドスッ。


矢が背中に突き刺さる。


男は数歩よろめき、そのまま倒れた。


静寂。風の音だけ。


「……全く」


吐き捨てる。


「余計な手間をかけさせやがって」


足元の死体を見る。


「飯が食えて、生きられた者を」


それを、自分で捨てた。

俺が殺した。


だが。


後悔は、無い。


守る側が甘くなった瞬間、守られる側が死ぬ。

それだけは、もう嫌というほど知っている。

剣を拭い、鞘に戻す。


遠くで、子供の笑い声が聞こえた。

さっきと同じ声。

温かい音。


「……」


胸の奥が、少しだけ重い。

けれど足は止まらない。


「……戻るぞ」


レオンが黙って頷いた。

守る。そのために。


また一つ、自分の中の何かが削れた気がした。

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