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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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灰を背に、刃は躊躇わず

王都を離れて、半日。隊列は重かった。

足取りではない。空気が、だ。

馬車には毛布に包まれた老人。

子供たち。

まだ怯えたままの女たち。

助け出せたのは、たった二十一名。


「……少なすぎるな」


誰に言うでもなく、エドワルドは呟いた。

あれだけの都だ、何万と人が居た。


それが——二十一。


救った、ではない。拾った、に近い。

胸の奥が、鈍く重い。


「エドワルド様」


横に並ぶレオンが低く言う。


「まだ引きずっておられますな」


「……顔に出てるか?」


「ええ。分かりやすいくらいに」


小さく笑う。


「ですが」


レオンは前を見る。


「助けられた連中は、あんたを神様みたいに見てますよ」


視線を向ける。


子供が、こちらをじっと見ていた。

目が合うと、ぺこりと頭を下げる。


胸が痛い。


そんな顔をされる資格が、自分にあるのか。

——もっと助けられたんじゃないか?

考え始めると止まらない。

その時だった。


ヒュンッ!!


「伏せろ!!」


レオンの怒鳴り声。

矢が一本、馬車の幌に突き刺さった。


「敵襲! 右手林!!」


ガサガサッと茂みが揺れる。

飛び出してきたのは——


「……盗賊か」


薄汚れた革鎧。錆びた剣。痩せた男たち。

数は十数名。


「止まれぇ! 食料と馬車置いてけ!!」


怒鳴っているが、声に余裕がない。

腹が減っている目だ。

追い詰められた獣の目。


「……終わってますな」


レオンがため息を吐く。


「構え!」


次の瞬間。


バシュッ!!

バシュッ!!


クロスボウが放たれた。


一撃、また一撃。

盗賊が二人、三人と倒れる。

民兵も落ち着いて槍を構える。


もはや——勝負にすらなっていなかった。


「散開! 包囲!」


レオンの号令。


団員が森に回り込む。数分後。戦闘終了。

生きて動いている盗賊は三名だけ。


しかも。


「脚、抜かれてますな」


太腿に矢。膝に矢。立てない。

地面を這いながら叫ぶ。


「た、助けてくれ!!」


「頼む!!殺さないでくれ!!」


「食い物が無かっただけなんだ!!」


必死だ。涙と鼻水まみれ。みっともない。

情けない。

——少し前までの王都の人間も、同じ顔をしていた。


その光景が、重なる。レオンが小声で言う。


「……どうします?」


「縛って連れて帰りますか?」


「労働力にはなりますが」


少しの沈黙。盗賊たちは叫び続ける。


「働く!!何でもする!!」


「奴隷でもいい!!」


「だから命だけは!!」


エドワルドは、じっと見下ろしていた。


頭の中に浮かぶのは、王都の死体、瓦礫。

地下で震えていた子供。


もし。


こいつらが王都に居たら?飢えた盗賊が。

あの子供たちを見つけたら?

——どうしていた?

答えは、考えるまでもない。


「……レオン」


「はっ」


「保護民を近付けるな」


「……了解」


盗賊たちが顔を上げる。


「た、助け——」


その瞬間。シュンッ。一閃。

首が飛んだ。血が弧を描く。


一人。


「ひっ——」


二人目。


三人目。


躊躇は無い。

剣を振るう速度が、異様に速い。

あっという間だった。


静寂。


風の音だけ。


レオンが、ゆっくり息を吐いた。


「……容赦ありませんな」


「盗賊は盗賊だ」


エドワルドは短く言う。


「放置すれば、次は民を襲う」


それだけだ。

正論。

正解。

——の、はずなのに、胸の奥が、妙に冷えている。

前は、もう少し迷った気がする。

もっと、言い訳を考えていた気がする。


今は。


「……進むぞ」


それだけ、淡々としている。

自分でも分かる。


何かが、確実に削れている。

馬車が再び動き出す。


助けた命の後ろで、三つの首が、地面に転がったまま。


誰も振り返らなかった。灰色の空の下。

エドワルドの影だけが、やけに長く伸びていた。

——守るために、斬る。

それが当たり前になり始めていた。

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