幕間 炎の中の聖譚歌
ちょいとグロい表現があったりなかったり。一応ここだけR−12くらいにしておきます。
燃え滾る炎。
その中に、俺はいた。
どこで、なぜ、どうして、の疑問の言葉は浮かばない。
現状を知ろうという意欲が、こんなときに起ころうはずもなかった。知ったところでどうにかなるものでもない。
そう考えている今も、俺の身体は焼かれ続けているのだから。
そんなときに去来する全ての前提は抜き去って満ちていく。
身体とは逆に冷え込んでいく心に注ぐもの。
恐怖。
痛みはなく、熱さも感じず、ただ怖いと思う。
肉が溶け、油が滾る。骨すら残さぬ炎が、俺を焼く。
確実に死ぬことを知りながら死へと向かう恐怖。
爛れ黒ずむ皮膚のように崩れていく自分の生に悲鳴を上げる。
実際に叫んだのかもしれない。
死への恐れ。生への渇望。
けれど炎はその慟哭も慈悲なく飲み込んだ。空気さえもここにはない。ただ炎が開いた口から体内奥部までその触手を伸ばす。言葉を許さず喉を焼き、呼吸を許さず肺を焼き、生きることを許さず心を焼く。
助けて、誰か助けて………。
声にならない言葉ばかりが、喉を通ることなく炎に嚥下される。
もう半分は溶けただろう眼球に映るのは、出来の悪いハリガネのマリオネット。
それは俺と同じ車体の中に閉じ込められた二体の人の形。
潰され曲がった歪な炭のオブジェ。
父さんと、母さん。
面影などないそれになぜかすんなりと自分は両親を当てはめた。
納得した。
そして自分の末路を知った。
嫌だ……。死にたくない……。死にたくないよ。
あんな物に成り果てて、死ぬのは嫌だっ!!
「……お兄ちゃん」
耳は焼かれていないのだろうか。聞こえてくる恐れを秘めた声のほうへと顔を向ければ、そこに妹がいた。
俺たちのように潰れた車の中にはいなかった。剥がれたドアと共に座り込んで俺を見ている。
妹は炎に焼かれてはいなかった。
妹の傍に死神はいなかった。
ただ頭から血を流すだけで、こちらを見ている。焼かれ焦げて行く俺を見ている。
安全圏から死に行く俺を見ている。
なぜ、お前は生きているんだ?
もう、死んでいた。そのときに俺はもう死んでいた。
ただ憎悪というのも生ぬるい感情が、吹き出たのだけは覚えている。




