第六話 水辺の妖精さん
「いやあ、いい季節になりましたな」
「まったくですな」
いつもはかったるい体育の授業も、夏場ばかりは休むことなどできるはずもない。男なら、男なら! これを見ずして夏は始まらないのだ!
燦燦と輝く太陽の下、水辺に戯れる妖精さんたち。輝く白い肌に、揺れる双丘。恥じらいに肢体を隠す紺色の水着。
私立ということもあり、他の学校とは一線を隔す大きなプール。それゆえ男女共同の水泳授業も可能になっているのだが、一応浮きによって男と女は仕切られていた。だがしかし、そんなもので俺たちの情熱は止められない。
大きな備え付けのプールの片隅で、プカプカ水中に浮かびながら行われる俺と如月の評論会。それは男のロマンだった。
「うちのクラスってレベル高いよなぁ。なあ、お前、誰が好み?」
「俺? そうだなあ、柳瀬かな。ほら、あれ」
そう言って指差した先。きゃあきゃあと騒いで水をかけられている一人の女子生徒。緩やかなウエーブのかかった栗色の髪と垂れ目の大人しそうな子だが、何より脱いだら凄いんです、がこのたび明らかとなりました。
「なるほど。お目が高い」
「お前は誰よ?」
「俺はこっち」
如月がずらした指先。その先にいたのは柳瀬と戯れるもう一人の少女。悪戯に柳瀬に水をかけて困らせているのは、確か萩野と言ったか。
スレンダーなタイプだった。黒髪のボブカット。モデル体型と言うべきか。すらっと伸びたその生足が美しい。今は水に隠れて見えないけどね。
「なるほど、ああいうのが好みか」
「お前と趣味が違ってよかったさ」
「同感だ」
女の趣味が男友達で合うときほど不幸なことはない。あとは血を血で洗う死闘が繰り広げられるだけだからな。
それから思い思いに青春を満喫していると、背後から差し込む影。やば、あのマウンテンゴリラ先生か!と慌てて振り仰ぐと、そこには上半身裸の美少女っ!!?
「ぐはっ」
「落ち着け、如月! 違う、これ違う! 一樹だ、一樹だぞ!」
「嘘だ。こ、こんな夢、ああ、ゆゆ、夢かこれは」
「血が、血が。ああ、染まっていく。止めろ、如月。止めろ。死ぬな、死ぬな」
「もう、大げさだなぁ」
耳にかかる髪を掻き分けて、そっと片足からプールへと入る一樹。その姿はもはや禁じられたお姿でございます。
なぜか目を背けてしまう俺。鼻血を出して水死体となった如月。
クラス男子の大半が俺と如月をトレースしている。女子生徒まで顔を赤らめる始末だ。
「で、何していたの?」
「いや、別に」
「うん、別に」
慌てて首を振る俺たち。別に一樹は男なんだから構いはしないだろうが、なぜか遠慮せずにはいられない。女子に猥談を持ちかける気にならないのと同じ理由だ。
不満そうに唇を窄めて、ふーんあっそ、と呟く一樹に如月が再び血を吐く中で、そういえば、と一樹は何か思い出したように呟いた。
「ねえねえ、知っている? 最近この街に放火犯が潜伏しているって」
「あ? ああ。聞いたことはあるけど」
ニュースにもなっていたな。何件も焼かれているのに、まだ犯人が捕まっていないと。ぼろくそに警察が叩かれ、口だけの批評家が四角のデジタル世界でぶつくさ言っていた。アクマは暢気に何のお祭り? と野次馬が集まる現場にちょっと行きたそうな顔をしていた。
だが何でいきなりそんな話に?
脈絡のない会話に首を傾げると一樹は悪戯っぽく側まで近づき囁いた。
「ねえ? 今日さ、放課後暇?」
「ひ、暇だ。うん、暇」
「良かった。だったら、放火犯探しに行かない?」
「は、はあ?」
何かいけない想像してしまった俺は拍子抜け。いやいやいや、別に何も考えていないけどな、いないけどな!
「てか、何で?」
「うーん、理由はいろいろあるけど、僕の家のお隣さんとこまで焼かれちゃったからかな。おじいさんとおばあさんの二人暮らしで命は無事だったんだけど、家が焼かれて困っていてさ。随分良くしてもらったし、僕としては敵討ちしたいんだよね」
「敵討ちって、お前。俺たちただの高校生だぞ」
「やだなあ。普通、なんて言葉は柊には似合わないよ。如月も、どこか人間離れしたとこあるしね」
「過剰な期待だな」
ため息を吐きながら如月を見る。如月は息も絶え絶えに復活していた。
「ま、まあいいんじゃないか。どうせ、暇だろ。俺もお前も」
「そうだけどよ」
面倒くさいことになったなあ、と再び疲れた息を吐く。そんな少年探偵団みたいなこと、俺の性には合わないんですけど。
やれやれアクマの晩飯どうすっかなー、とぶつくさ文句を言いつつ頭をかきながら承諾する俺。なんだかんだ言って状況に流されるのは悪い癖かね。




