黒魔術研究所
――先生の反応が気になって見に来たけど、なにか秘密があったようだな。
魔物などの気配はないので、また別の状況のようだ。
ただ、この学校の状況も異世界で見たことがある。
魔物を研究していた研究所のような気配の感じ方だ。
ただ、その研究所の魔物の力を使い、国を乗っ取ろうとしたので滅ぼしたのだ。
同じ人でも闇の力に染まると良くない。
まだそれほど強い力は感じないので大丈夫だろうが、いずれ反乱を企てるかもしれない。
「ちょっと釘をさしておいたほうがいいかもしれないな」
おそらく先生もこれを防いでほしいと思ったのだろう。
転移した際に色々とゴタゴタに巻き込んでしまったであろうにもかかわらず、戻ってきた自分にも優しくしてくれた人。
だからこそ佐伯は力になりたいと思ったのだった。
「よし、行くか」
最低限気配を消しつつ、学校の中へと入ろうとする。
しかし、門はきっちり閉まっていた。
――堂々と入ると不審者に思われるよな? それに学校だったら監視カメラも。姿を隠した方がいいか。
光魔法を使い、他人から姿を見せないようにする。
単に光の屈折を利用してその場にいないと思わせるだけの魔法。
その場に実在はしているので、いざ攻撃を受けると弱いが、この世界だと早々奇襲はないだろうから問題もない。
「さて、魔力の痕跡は――」
学校の中から気配はあるのだが、それは地上ではなく地下から漂っている。
ただ、佐伯の記憶が正しければこの学校に地下なんてなかったはずだ。
「……隠されてた? それとも職員しか知らない部屋があるのか?」
そうなると簡単に地下への入り口が見つかるとも考えにくかった。
「……面倒だな。ちょっと時間短縮するか」
恒常的に周囲の気配は探っているものの、念のためにいつもより詳しく調べる。
やはり研究所のような場所のようで、黒い魔力がある場所に人の気配もする。
しかし、それほど人数が多いわけでもなかった。
能力が高そうな相手もいない。
――これなら問題なさそうだな。
一応学校が壊れないように教化魔法を付与しておく。
そして、次の瞬間に佐伯は地面に大穴を空けていた。
地下へと続く穴。
中で働いている人たちはあまりにも一瞬のことで何が起こった変わらない様子だった。
しかし、中へと入ってくる佐伯の姿を見てようやく事情を把握する。
「敵だ! 敵襲だ!! 陰陽師が攻めてきたぞ!!」
すぐさま集団に囲まれる佐伯。
なにやら黒い衣装を身に纏い、顔すら見えない。
更に地下の壁には色んな魔法陣が描かれている。
もちろん、明らかな失敗作で、先行で学んでいない佐伯ですらいくつも間違いを見つけることが出来ていた。
そもそも魔法陣の内容が初級水魔法だ。
わざわざ魔法陣を作らなくても詠唱すればあっさりと使うことが出来る。
慣れた人なら無詠唱でもいけるような魔法なのだから、仰々しい魔法陣で頼る人は見たことがなかった。
「くくくっ、陰陽師め。我らが黒魔術協会に目をつけるとは」
「黒魔術? でも、それって魔法……、いや、この世界で言うなら陰陽術じゃないのですか?」
あまりにも同じ内容だったために聞き返してしまう。
すると、彼らは憤慨していた。
「わ、わ、我らの崇高な黒魔術を陰陽術如きと同じだと!? ゆ、許せん。やってしまえ!!」
目の前の人物が指示を出すと数人が魔法陣に力を込め始める。
あの、初級水魔法が使える魔法陣に――。
――あのくらいなら受けてあげてもいいのですけどね。
時間をかける余裕もないため、佐伯は魔力で一部魔法陣を書き換える。
相手の魔力を全て吸い取る魔法陣に。
もちろん、その結果発動する魔法は飲み水を少し出す程度。
書き換わったことに気づかずに、自信ありげに魔力を込め続ける。
ただ、いくら魔力を込めてもまともに術が発動しないことを不思議に思っていた。
「な、なぜだ。どうして術がでない!?」
「……わかりやすく変えたつもりなんだけど、気づかないのですね」
「な、なにっ!?」
「ちょっと、ここの施設は壊させていただきますね。闇の魔力は危険ですから」
佐伯は施設の設備だけを標的に魔法を使う。
土の弾を発射するだけの初級魔法。
ただ、その数と速度、威力だけは桁違いだった。
一瞬のうちに研究施設は瓦礫の山と化していた。
「このままここを放置しておくのもよくないですよね。埋めてしまいますか」
「ま、待て。わ、我らの研究成果を……」
「あなたたちはちょっと外で待っていて下さいね」
風魔法で怪しげな人たちを地上に放り投げると、闇の魔法を浄化し、その上で土魔法を使い埋めてしまう。
そのまま佐伯も地上に戻ってくると最初から地下がなかったかのように埋め立ててしまう。
怪しげな黒い魔力も既になくなっている。
ここまでしたら先生も喜んでくれるだろう。
行き場に困った俺に手を差し伸べてくれた優しい先生のためならできることなら協力したいと思えたのだ。
――それにしてもこの世界にも裏の組織があるんだな。いや、陰陽師もそういう組織か。……知らないことが多すぎるな。
佐伯は苦笑をしつつ、怪しげな姿の人たちをそのまま置いて、宿へと戻るのだった――。
その後、学校へ来た先生が地下へ行けなくなったことに絶望して青ざめていたなんて気づかずに。
◇ ◇ ◇
改めて柔らかいベッドでゆっくりと眠りに就く。
これからのことを考えると眠れなくなるかと思ったが、意外と体は休憩を欲していたようで、佐伯は朝まで熟睡してしまった。
翌朝、朝食をもらいながら昨日のことを考えていた。
この世界にも平和な暮らしを脅かそうとする組織がいることを。
更に普通の人にとっては危険な魔物がいることも。
――俺にとっては簡単に倒せる相手なんだよな。でも……。
陰陽師は裏組織。
それはつまり異世界に行っていたときと同じように職歴には書けない。
無職の期間が増えるのだ。
――いや、それはあの四宮がどうにかしてくれるか?
ただ四宮も全てを話しているわけではないことを佐伯は理解していた。
おそらくは良いところしか言っていない。
佐伯にとって不都合なことを隠しているかもしれない。
それでもまずは生活の基盤を作らなくては生活ができない。
まだどこがどういった動きをしているのかわからない現状、中立を保たせてくれる四宮の申し出が一番良いものに思えていたのだ。
しかし、表向けには無職となるのは……。
それに住むところも……。
「よし、それなら――」
朝食を取り終えると佐伯は早速四宮に会いに行くのだった――。




