四宮家
結局佐伯は男性の思惑に乗ることになった。
なにせ異世界のことを知っている相手だ。それだけで十分に話を聞くに値する。
――もしかすると、知っているだけではなく俺と同じ転移者かもしれない。
その場合は戻ってきてどうやって社会に復帰したのか、とか色々と聞きたいこともあった。
「着きました。こちらです」
案内されたのは荘厳な佇まいの大きな和風住宅だった。
巨大な門を通されると綺麗に整えられた庭があり、見る者を圧倒させる。
そんな庭を通り、玄関より中に案内されると広い和室の客間へと案内された。
「……なんだか落ち着きませんね」
勇者だったこともあり、大きな建物は異世界でも何度も入ったことがある。
しかし、純和風建築となると、これが生まれて初めてのことだった。
長らくやらなかった正座をしているとすぐに足に痺れがやってくる。
まだ相手が来るまでだというのに。
すると、入ってきた人物が笑いながら言う。
「足は崩してくださいね。落ち着ける態勢で聞いていただきたいので」
「ありがとうございます」
お礼を言うとそうそうに足を崩す。
ようやく意識を足以外に向けることができたので、改めて男性を見る。
佐伯よりやや上だろうか?
和装をした物腰が落ち着いた男性が佐伯と向かい合うように座っていた。
「よくお越し下さいました、佐伯様。私は四宮家当主、四宮正宗と申します」
「これはご丁寧に。佐伯浩二といいます」
綺麗な態勢で頭を下げて挨拶をされるものだから、佐伯も釣られるように名前を言っていた。
「あははっ、すでに佐伯様のことは調べさせていただきました」
「……それは先ほど聞いた話のことも?」
敢えて異世界ということをぼかしながら確認をする。
「異世界から帰還されたことでしょうか?」
「っ!? やはりご存じなのですね」
表情一つ変えずに話す四宮だからこそ、佐伯は異世界について何か知っているのだろうと悟る。
「全てを……、と言いたいところですけど、それほど知っていることはないのですよ」
「どういうことでしょうか?」
「その前に一つだけお尋ねしたいのですが、佐伯様は帰還者ですか? それとも転移者ですか?」
四宮はジッと佐伯のことを見ながら目を光らせる。
穏やかな性格をしているからこそ、その迫力に思わず息を飲む。
「その二つにどういった違いがあるのですか?」
「転移者は異世界から来られた人、帰還者はこの世界から異世界へ行って帰ってきた人になります」
「それでしたら私は帰還者になりますね」
「やはり……」
四宮は安堵の息を吐く。
「実は私が受け継ぐ四宮家、その初代が帰還者だったと言われております」
その言葉に佐伯は驚かされる。
呼び出されたときにもしかしたら、と思ったがまさか自分以外にも異世界へ行った人がいたことに。
「ただ、伝わっていることはそれほどないのです。圧倒的な能力を持っていたこと以外に」
「そう……なのですね」
「それは佐伯様にも同じ事が言えるのではないでしょうか?」
「どうでしょうか? そもそもこの世界は安全だと思っておりましたし」
「安全だと思われるように我々の存在は隠しております。でも、能力があるものはその気配を察してしまいますから」
申し訳なさそうに四宮は顔を歪める。
「そういった者にはこちらの世界で生きていけるように訓練を施しているのです」
「なるほど。確かに練習しないと上達しませんしね」
「実際に実務等も行っているのですよ。そこで佐伯様にお願いがあるのです」
四宮はジッと佐伯のことを見る。
「陰陽寮の付添人の仕事、受けてくれませんか?」
そこで佐伯は疑問が浮かぶ。
「その……、陰陽寮ってなんでしょうか?」
「申しわけありません。まずはそこからですよね。陰陽寮は文字通り、陰陽師が所属する組織のことをいいます。ある程度強さに応じてランクを分けることで、現れたあやかしの強さに応じて、即座に派遣できるようにしてあります」
説明を受けたはずなのになぜかわからないことが増えていく。
「ちなみに私は第一席です。陰陽師十家の長ですからね。でも貴方が加わってくれると次席に落ちちゃいますね」
四宮は恥ずかしそうに照れながら答える。
たしかに魔力で言うならC~Bランク冒険者程度の魔力しか持ち合わせていないようだ。
これでトップとなると……。
――もしかして、俺が倒してきた魔物たちってとんでもなく強い相手だったのか?
思わず驚愕してしまう。
ただ、魔法とは違った体系のようなので、念のために確認をする。
「すみません。その陰陽師、というのが私はよくわかっていないのですが――」
「えっ? でも気力を使って術を使っていますよね?」
「……気力? もしかして魔力のことでしょうか?」
実際に手のひらに炎を出してみせる。
魔法を見せる際に一番わかりやすくて愛用しているものだった。
「そちらの術のことになります。この国では昔から気を使った術ということで、陰陽術と言われていたのです。もちろん表向きは易や天文を司る陰陽師と言われていますが」
――つまり魔法が陰陽術で、それを使うものが陰陽師ってことか。
「それであやかしというのは、もしかして魔物のことですか?」
「魔物……でございますか? あやかしは人に害をもたらす悪しき気より生み出されたものになります。現世に長く留まることでより強い力を有すると言われております」
わからないことはその都度質問をしておおよその事情を把握する。
それでもどうしてもわからないことがあった。
「なぜ私に声を掛けたのでしょうか? すでに力を持った方がいるのではないですか?」
「お恥ずかしながら、現在の陰陽師は家々の対立が激しく、他家に負けないように動くことが一般化しているのです。ただ、それでは今後力は弱っていくばかりになります。だからこそ、全ての家と無縁の貴方に頼みたいんです。いかがでしょうか?」
言わんとしていることはよくわかる。
佐伯が異世界にいたときも魔法使いに色んな派閥があって、誰が賢者になるのかとかなり争っていた。
最終的に佐伯のパーティーメンバーの一人が賢者の称号を得ていたが、その前後くらいには同じ仲間であるはずの魔法使い達が襲ってきたりもしたものだった。
そうならないための抑止力がほしいということだろう。
佐伯からしても、異世界のことを誤魔化す必要のない四宮の提案は願ったり叶ったりのものである。あとは――。
「事情はわかりました。ただ、少しだけ考えさせてもらってもいいですか?」
「もちろん構いませんよ。ただ、六条や九鬼、二宮は十家の一つになります。そちらに手を貸されるのなら、できれば私の提案を受けて頂きたいと思っております」
「……九鬼?」
「いえ、貴方を誘おうとしている家で私が把握しているのがこの三家だから上げさせてもらっただけです」
「わかりました。そちらも含めて考えさせて頂きます」
「では、お見送りをさせていただき……、いえ、宿の用意をさせていただきますね」
「そこまでしていただかなくても構いませんよ」
「いえ、これは余計な陰陽師家が付かないための処置ですから」
「――わかりました。ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
こうして佐伯は戻ってきて初めて柔からい布団で寝ることができるのだった。
ただ、寝る前にやることがあったので、誰にも気付かれることなく布団を抜け出していた。
向かう先は学校。
先生が最後に不穏な気配を見せたことを不思議に思い、様子を見に来たのだった。
うろ覚えの学校はなんだか昔と比べて小さく感じられた。
そして、学校には怪しげな黒い魔力の気配が至るところから感じられるのだった――。




