三家からの追っ手
六条遥はあの日以降、命の恩人を探し続けていた。
六条家を総動員して探しているのだ。
あれだけ目立つ格好をした人ならすぐに見つかる。
――そうなったら色々とお話をして、それからそれから……。
少女らしい一面を見せて顔を赤くする。
そんな遥の思惑とは裏腹に鎧の相手、遥の運命の人である佐伯浩二は見つからなかった。
しかも、六条を総動員し続けられない理由までできてしまう。
「すまない、遥。先にやるべきことができた」
「……わかっております。王のことですね」
父、政志は深刻そうに伝えてくるので、遥は頷くより他なかった。
封印されていたあやかしの王の一体が、結界を破ったという報告を受けたのだ。
その昔、陰陽師十家が協力をして、たくさんの犠牲を払いながら何とか封印することができた強大な相手。
結界も万能ではないために破られる前に張り直すか、討伐するしかないのだが、過去のまだ陰陽師の力が強かったときですら封印するしかできなかった相手。
血が薄まり、ずいぶんと力が弱くなってしまった現代陰陽師ではとてもじゃないが、歯が立たないだろう。
警察をまとめ上げる二宮家が大規模災害による封鎖の準備をする。
政府にも四宮が報告している。
あとは早期に討伐するだけ。
一体どれほどの犠牲が出るのか。
――こんな時に佐伯様がいてくださったら……。
ほんの数分しか会っていないにもかかわらず、佐伯への絶大な信頼を寄せる遥。
それは命を救われたからだけではない。
圧倒的な気力を前に思わず見惚れてしまったのだ。
容姿が整っており、人気の高かった遥。
人から好かれることは多々あったが、病気のことで手一杯で、自分から惚れるということはいままでなかった。
そんな遥がまさか一回り年上の佐伯に一目惚れするなんて誰も思っていなかったのだ。
ただ、それでも陰陽師の名家たる六条家の娘である遥は自由に恋人を作る事も叶わない。
陰陽師の血を守っていくことも大事なのだから。
しかし、佐伯自信も術者で、今世ではありえないほどの力の持ち主ということも合わさり、あっさりと婚約の許可が出てしまう。
あとは佐伯から承諾を得るだけ。
ちゃんと佐伯が結婚していないことは指を確認している。
ただ愛し合う二人の仲が深まるには障害が多すぎるようだ。
「待っていてくださいね、佐伯様。あなたの遥がすぐに迎えに行きますからね」
にっこりと微笑むと治してもらった際に手を近づけてくれた胸辺りをそっと触れる。
――どうせならあのまま触ってくれても良かったのですけどね。
ただ、それを想像した瞬間に遥は顔が真っ赤に染まり、ベッドに寝転がると足をバタつかせるのだった。
◇ ◇ ◇
それからまもなくして疲れた父、政志が帰ってくる。
「どうかされたのですか?」
「あやかしの王がすでに討伐されていた」
深々と椅子に腰掛けると頭を押さえていた。
「一体誰がどうやって倒したのか、皆目見当もつかん。ただ、現地には証拠の一つも残っていないから引き上げてきた」
「……佐伯様ですよ」
「なんだと?」
遥の呟きに政志は思わず立ち上がる。
「そんなことができる人は佐伯様しかおりません。お父様もわかっているのではないですか?」
「……さすがにこれほどとは思っていなかった。あと、佐伯浩二殿についてだが、他所でも探し出しているところが出てきたな」
それを聞き、今度は遥が立ち上がる番だった。
「ど、どういうことですか!? まさか、うちの誰かが漏らしたのですか!?」
「いや、どうやら直接会ったらしい」
「ど、どなたが会われたのですか?」
遥は何とか腰掛けると青ざめた表情のまま聞く。
「まずは二宮の倅だな」
「司くんですね。確かに警察署で佐伯様のお名前を教えていただきましたが、それほど興味を持っていたわけではなかったですよ?」
「いや、そのあともう一回あったらしい。しかもあやかしを倒しているところに遭遇したようだ。速すぎて実力を測れなかったらしいが」
その言葉に遥は少しだけホッとする。
佐伯の実力を真に知っているのは自分だけとわかったから。
「ただ、唾は付けたらしい。仕事に困っている様子だったから、連絡してくるように名刺を渡したと言っていた」
「中々やりますね、司くんは。今度会ったら締めておきますか」
「やめておけ。それに二宮よりもっと厄介な相手に目を付けられていたぞ」
「……えっ? 一体誰ですか!?」
「――九鬼家だ」
九鬼家は陰陽師十家の中で結界術を得意としている家である。
極道を思わせるかの荘厳な様式を見せる九鬼家は、特に現当主である九鬼茜が台頭したことで更に力を付けていた。
いずれ四宮すらも脅かすのではないか、と言われているほどの家である。
「ど、どうして九鬼家が!?」
「気をたどったらしい。昨夜より王の出現でかなりのあやかしが現れていたからな」
「そ、そんな……。私でも気付かなかったのに……」
佐伯へ繋がる道があったことを知り、遥はガックリと落ち込む。
「仕方ないだろう。どうにもあやかし用の監視の結界から辿ったようだからな。私にもわからなかったのだ。遥では気付きようもなかろう」
「……はいっ」
「どうやら佐伯殿は芸術にも詳しいようだ。気の篭もった湯呑みを幾つも作っていたらしい。しかも、それを全て九鬼茜に献上したと聞く。そこまでされては恩を返さなくてはいけないと探しているらしい。ある意味うちと同じ状況だな」
もちろんその湯呑みは中に入っていた水が本当の売り物で、献上したわけでもなく、ただ回収を諦めてそのまま置いていっただけなのだが、それを知る者は佐伯以外には誰もいなかった。
◇ ◇ ◇
佐伯を別の陰陽師家に取られるかもしれないと考えると、遥は居ても立ってもいられなくなり、時間の許す限り探しに出掛けていた。
すると、功を奏したのか、佐伯を発見する。
どうやら鎧はもう脱いでしまったようで、なかなか見つけられなかったのもそういったことが原因のようだ。
――やっと見つけた……。
遥は思わず笑みを浮かべる。
考えなかったわけではない。
なにせ相手は一回り年上の男性。
更には非常に強力な陰陽師でもある。
普通に暮らしていたら寄ってくる人はいくらでもいるだろう。
更に佐伯と話しているのは彼よりも少し年上の女性。
――お母様と同じくらいの歳の人かな?
一方、遥は自分の体を見る。
大人らしく成長してきたとはいえ、まだまだ子供であることを痛感させられる。
――ううん、そんなことわかってたよね。それでもあの人と一緒になりたいって思ったんだから……。
楽しそうに談笑をしている様子の二人に心が痛む。
グッと拳を握りしめると、大きく深呼吸をして、そのまま店へと入っていく。
「こんにちは、鎧のお兄さん。また会いましたね」
全ての感情を押し殺して、遥は笑顔を見せていた。




