閑話 赤い旗の端【別視点・三浦遼太】
一組の先生に呼ばれて戻ると、隣の席の男子が、赤い旗の角を足で押さえていた。
「遅い」
「呼ばれてすぐ戻ってきただろ」
男子は、足元の旗から顔だけ上げた。
「二組に勝ったって言いに行ってたんだろ」
「勝ったんだから、言いに行ってもいいだろ」
「わざわざ二組まで?」
「別にいいだろ」
さっき二組で見た七海は、まだ言い返し足りなさそうだった。でも、勝ったのは本当だ。
もう一人の男子が、旗の向こうから俺の足元を指さした。
「三浦、そこ持って」
「ここ?」
「角」
最初に「遅い」と言った男子が、足で押さえていた角を手に持ち替えた。
「三浦、話すなら手も動かす」
先生に言われ、しゃがんで旗の角をつかんだ。
赤い布の裏から、白い粉と細かい土が落ちる。三人で端を持ち上げると、真ん中に長いしわができた。
「せーの」
声に合わせて引いたつもりだったのに、俺のところだけ先に動いた。
「三浦、早い」
「せーのって言っただろ」
「こっち、まだ持ち直してたんだよ」
もう一度旗を開く。
「次、俺が言う」
向こうの二人が持ち直すのを待った。
「せーの」
今度は真ん中にしわができなかった。端を合わせて半分にし、土のついた面を外へ出したまま、もう一度折る。
細長くなった旗を三人で体育倉庫まで運んだ。棚の空いている段を探し、真ん中の段へ入れた。
「あとで土を払うから、上に何も載せるなよ」
先生に言われ、最後に手を離した。赤い旗の端だけが、白く汚れたまま棚の手前に見えていた。
教室へ戻って着替えると、机の上に修学旅行のしおりが置かれていた。
最初のページを飛ばして、後ろの方にある持ち物の欄を開いた。
「小遣い、三千円までだって」
「そこから見るのかよ」
隣の席の男子も自分の席へ戻り、横からしおりをのぞいた。
「お菓子は食べられる分。使い捨てカメラは、名前を書けば持ってきていい」
「カメラもいいの?」
「ここに書いてある」
持ち物の一番下にある行を指で押さえた。
「三浦、持ってくる?」
「母さんに聞く。持っていけたら、みんなで撮ろうぜ」
「三浦が撮ったら、三浦いないじゃん」
「交代すればいいだろ。俺も入る」
「じゃあ最初は三浦が撮れよ」
「何でだよ」
「三浦のなんだし」
「次はお前だからな」
しおりを鞄へ入れようとしたが、水筒と体操服で中がいっぱいだった。筒みたいに丸め、空いている隙間へ差し込む。
「それ、落とすぞ」
「落とさない。家で広げるから」
帰りの挨拶が終わると、さっき旗を畳んだ二人が教室の外から呼んだ。
「三浦、帰るぞ」
「待って」
鞄を持って廊下へ出た。
二組の前を通る時、中から七海の声が聞こえた。名前を書く前になくさないでよ、と誰かに言っている。
「三浦、カメラのこと聞くの忘れるなよ」
「俺が見つけたんだから、忘れないって」
階段の手前で二人に追いつき、二人の間に入って下りた。




