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悪役令嬢は玉座を望まない ―溺愛宰相と築く、破綻寸前国家の再建録―  作者: 花菱エマ


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第32話 「制度」

 地方アルミナの是正報告から二週間。


 小さな汚職は、公に裁かれた。


 中央の圧力ではなく、地方議員候補自身の告発によって。


 それは完璧ではない。

 だが確かに、以前とは違う。


 王城中央会議室。


 新王アルベルトが上座に座る。


「議題は、恒久制度化について」


 静かな声。


 重臣たちの視線が、リゼリアへ向く。


 彼女は立ち上がる。


「提案します」


 机上に三つの書類を置く。


「第一に、財政監査局の独立」


 ざわめき。


「王命から切り離し、議会直属へ」


 重臣の一人が眉をひそめる。


「王権の縮小だ」


「ええ」


 否定しない。


「第二に、地方自治法の明文化」


「そして第三に、予算公開の義務化」


 沈黙。


 アルベルトが問う。


「あなたは、王権を弱めたいのか」


「いいえ」


 視線を逸らさない。


「強くしたい」


「どう違う」


「制度が王を守る」


 静かな答え。


「王個人ではなく、王という立場を」


 室内が静まる。


「私は王妃になりません」


 唐突な宣言。


 ざわめきが広がる。


「摂政にもなりません」


 続ける。


「役職を持たず、顧問としてのみ関与します」


 アルベルトの目が細まる。


「権力を拒むのか」


「はい」


「なぜだ」


「個人が制度を握れば、去ったときに崩れる」


 沈黙。


「私は残るものを作りたい」


 静かな決意。


 重臣の一人が口を開く。


「だが、あなたは民の支持を得ている」


「支持は揺らぎます」


「それでも」


「だからこそ制度が必要です」


 視線が交錯する。


 アルベルトは数秒考え、ゆっくりと頷く。


「承認する」


 ざわめき。


「段階的に実施」


「王権の最終拒否権は維持」


「だが監査は独立」


 妥協点。


 だが十分だ。


「ありがとうございます」


 一礼。


 会議は散会する。


 廊下に出ると、夕陽が差し込んでいる。


 長い影。


 その隣に、もう一つの影はない。


 だが足取りは揺れない。


 窓辺に立ち、王都を見下ろす。


 広場では、子どもたちが走っている。


 静かな日常。


「これで終わりではない」


 小さく呟く。


 制度は始まったばかりだ。


 だが、自分の役目はここまで。


 翌朝。


 辞任届を提出する。


「顧問職を辞します」


 クラリスが目を細める。


「本気か」


「はい」


「理由は」


「制度は走り始めた」


 静かな声。


「私は象徴である必要はない」


 沈黙。


「後悔は」


「ありません」


 少しだけ間を置いて。


「痛みはあります」


 正直に言う。


 クラリスは小さく頷く。


「あなたらしい」


 王城を出る。


 門の外、馬車が待っている。


 だがその前に、足音。


 止まる。


 振り返る。


 灰色の瞳。


 だが近づいては来ない。


「……終わったか」


 カイルの声は、以前よりも静かだ。


「ええ」


「王妃にはならないのか」


「なりません」


 即答。


「あなたは?」


「宰相を続ける」


 短い応答。


 沈黙。


 風が吹く。


「私はあなたを待たない」


 リゼリアが言う。


「知っている」


「守られない」


「知っている」


 灰色の瞳が、揺れずに見つめる。


「並び立つなら」


 彼が一歩だけ近づく。


「隠し事はしない」


 その言葉は以前と違う。


「私を利用しないと誓う」


 沈黙。


「誓える?」


「誓う」


 合理ではない。


 計算でもない。


 ただの宣言。


 リゼリアは数秒見つめる。


「私は、もう守られない」


「分かっている」


「並ぶだけ」


「ああ」


 長い沈黙のあと、彼女は小さく頷く。


「なら、並びなさい」


 それは許可ではない。


 選択。


 馬車に乗る。


 扉が閉まる。


 動き出す。


 窓の外、王城が遠ざかる。


 悪役令嬢は、玉座を望まなかった。


 だが制度は残った。


 そして、隣に立つ影は――今度こそ、対等だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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