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悪役令嬢は玉座を望まない ―溺愛宰相と築く、破綻寸前国家の再建録―  作者: 花菱エマ


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第31話 「選択」

 孤独は、想像よりも静かだった。


 カイルが去ってから三日。

 王城の空気は何も変わらない。


 だが、隣に立つ影が消えた。


 決裁書類の山。

 地方自治拡大の試験導入地区からの報告。


 リゼリアは一枚ずつ目を通していく。


 その中に、赤い印が押された緊急報告書。


 地方都市アルミナ。


 自治予算の一部が不明瞭。

 新設監査局の担当者が辞任。


「……やはり来た」


 予測はしていた。

 権限を広げれば、必ず悪用される。


 だが速度が早い。


 クラリスが入室する。


「地方アルミナの件」


「把握しています」


「早急な是正が必要です」


「王は?」


「静観」


 短い言葉。


 つまり――任せる。


 カイルはいない。


 助言もない。


 決断は、彼女一人。


 窓の外、王都は穏やかだ。

 だが地方が崩れれば、制度は信頼を失う。


「監査官を派遣します」


 即答。


「中央から?」


「いいえ」


 首を振る。


「地方選出議員候補者から」


 クラリスの眉がわずかに動く。


「政治的リスクがある」


「承知しています」


 だが続ける。


「中央がすべて握れば、自治ではない」


 沈黙。


「失敗すれば、あなたの責任だ」


「はい」


 迷いはない。


 クラリスは小さく頷き、退室する。


 一人になる。


 胸の奥に、不安が浮かぶ。


 以前なら、合理的な声が隣から届いた。


 今はない。


「……怖い」


 初めて、言葉にする。


 失敗すれば制度が崩れる。

 成功しても、反発は残る。


 それでも。


「選ぶ」


 ペンを走らせる。


 監査強化案。

 地方透明化法案。

 罰則規定。


 そして最後に、署名。


 自分の名前。


 数日後。


 アルミナからの続報。


 汚職に関与したのは、地元有力者。

 中央からの圧力はなかった。


 地方議員候補が告発し、辞任勧告。


 小さな成功。


 だが報道は冷ややかだ。


「やはり汚職は起きた」


「制度は未熟」


 広場で囁きが広がる。


 リゼリアは演壇に立つ。


 今度は石は飛ばない。

 だが信頼もまだ薄い。


「汚職は起きました」


 最初に認める。


 ざわめき。


「だから制度をやめるのではなく、強くする」


 視線を前に向ける。


「私の責任です」


 沈黙。


「私は王ではありません」


 はっきりと言う。


「ですが、制度を残します」


 ざわめきが静まる。


「守られる立場ではない」


 自分に言い聞かせるように。


「選び続ける立場です」


 拍手は小さい。


 だが確かにある。


 夜。


 執務室で一人、書類を閉じる。


 疲労が全身に重い。


 だが、揺れはない。


「私は一人で選んだ」


 それが何より大きい。


 扉の外、足音が止まる。


 一瞬、心が反応する。


 だがノックはない。


 誰も入らない。


 静かな廊下。


 彼はいない。


 それでも。


 リゼリアは微かに微笑む。


「大丈夫」


 もう守られなくても。


 悪役令嬢は、自分で選ぶことを覚えた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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