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九十七 勧誘

花の運搬が終わり、幸一は鏡花と種選定の時間を約束してから、仙縷閣に戻った。


幸一の姿が見えないまで、鏡花は扉の前で彼を見送りをした。


鏡花は再び家のほうに振り向くと、目の前に白い花のつぼみがあった。


「!」


一人の黒い衣裳の青年が、いくつか大きなつぼみができている花の植木鉢を持って、鏡花を待っていた。


「生け花より生きてる花が好きだろ?この子は今夜に咲くんだ」


だが、鏡花はその優しく微笑んでいる青年に答えもしなく、庭に入って、扉を閉めた。




幸一はワクワクな気持ちで賑やかな街を通る。


「雪月華」をもう一度手にしたい。それは鏡花を説得するための言い訳ではない。


前世が多くて、薄い記憶しかないのがほとんど。


還初太子(かんしょたいし)の世が近く、天良鬼との繋がりも強いから、鮮明に覚えている。


あの世で、還初太子は偶然に見つけた不思議な花「雪月華」を天良鬼に送りたかったけど、実現できなかった。


その遺憾を補うために、幸一は「雪月華」を作り出したい。今回こそ、修良に贈りたい。




仙縷閣は青楼が集まる街にある。


その街の一角で、幸一たちを探しに来た珊瑚は青楼の女子に絡まれた。


でもその女子の目的は客引きではなく、仕事の勧誘だ。


「公子のようなかっこよくて美しいお方を見たのは初めてですわ!公子がうちのお芝居に出演してくだされば、きっと、一夜で名俳優になります。お金も女も公子のものです!どうか、どうかうちのお芝居に出演してください!」


「お褒めの言葉、ありがたくいただきます。確かに、それがしは美しくてかっこいい。ですが、一応役人ですし、お芝居に興味が……」


珊瑚は婉曲的に断ろうとしたが、女子は攻め続けた。


「兼職でもいいです!仙縷閣に勝つために、どうしても公子のような美しいお方が必要です!」


「仙縷閣に勝つために?」


そこが修良の店だと知っているから、珊瑚は少し興味が湧いてきた。


「そうです!うちは普通の青楼だったけど、近年ずっと経営不振で、ママは最後の賭けのつもりで仙縷閣のような劇場に変えようとしています。運が良くて、応援の方から脚本をいただきました。今は俳優を大募集しています!」


「へぇ、おもしろい話ですね」


珊瑚に事情を説明しているうちに、女子は更に必死になった。


「お願いします!失敗したら、うちのみんなは居場所を失くして、ほかの青楼に売られるかもしれません!善行とでも思って、一度だけでいいから、お願いします!」


「善行のためなら、考えなくもないが……それがしには別の仕事があるし……」


珊瑚はちょっと困ったけど、すぐ解決法を思いついた。


自分にキラキラ効果を付けながら、珊瑚は陽気な笑顔で提案した。


「こうしよう、それがしは演劇にお得意な友達を紹介してあげる。どうかな?」


「!」


その美顔攻撃を食らって、女子は赤面になった。


「ぜ、是非お願いします!で、でも、やはり公子に主人公をお願いしたいです!」


「えっ、なんで?確かに、その友達より、それがしのほうが美しいけど……」


珊瑚が戸惑っていたら、女子は袖から一冊の本を出した。


「これを見てください!公子の外見は、この脚本の主人公そのまんまです!」


「!」


珊瑚はパラパラとその脚本を読んでみたら、かなり複雑な表情になった。


「……誰だ、こんなのを書いたのは……」


表紙に戻って、著者名を確認した。


著者は「春日桃紅」。その名前は珊瑚にちょっと「厄介な」知り合いを思い出させた。


「まさかね……」


珊瑚はさらに突き込むかどうかか迷っていたら、数歩先に幸一が歩いてるのを見た。


さっそく声を出して幸一を呼んだ。


「幸一!」


幸一が振り向くと、青楼の女子は大きく息を飲んだ。


「!!あっ、あの人は、公子のお、お、お友達ですか?」


「そうだけど、演劇に得意な友達では……」


「や、やばい、やばいですわ!」


珊瑚の話も聞かず、女子は幸一の前に飛び込んだ。


「是非うちのお芝居に出演してください!!」


「えっ!?お芝居!?」


突然すぎて、幸一はわけも分からなかった。


「何処から説明すればいいかな、えっと……」


珊瑚が説明しようとしたが、彼の代わりに、ほかの声が女子の勧誘に対応した。


「大変申し訳ございません、お嬢様。この人は、すでに私と専属契約を結んでいます」


女子に答えたのはほかでもなく、修良だった。


いつの間にか、修良は幸一に後ろに現れた。


「えっ、そ、そうなんですか?」


女子はがっかりした。目の前の修良の身分も知らずに、愚痴を付けた。


「三人まとめてうちのお芝居に出演してくれれば、きっとあの仙縷閣に勝てるのに……」


「すみませんね、お嬢さん。出演のこと考えておくから、あらためて話をしに行くよ。今日はもうこの辺にしてくれる?」


幸一たちと真面目な話をしたいので、珊瑚はこの余興を終わらせた。


「ちなみに、脚本をもう少し詳しく読んでみたい、しばらく預かってもらってもいい?」


「も、もちろんです!!」


脚本を読んでくれるのを聞いて、女子は珊瑚の誠意を感じ、素直に引いた。


「先輩!いつ来たの?」


さっきの出来事はまだよく理解していないけど、とりあえず、幸一は修良に向けた。


「かなり前から幸一を見たよ。幸一は私を見ていなかっただけだ」


修良は幸一に軽く微笑んで、話を珊瑚に投げた。


「どこかでその『救世主』に関わる極秘情報を話そう」


「修良さんのお店がいいな。噂の仙縷閣のお芝居はまだ拝見したことがないし」


「残念ながら、今日の演劇はもう終わった」


修良は表情を引き締めて、珊瑚を断った。




大声で言えない話なので、三人は夜遅くまで営業する酒屋で個室を取った。


「店舗は大きくないのに、すべての机に生け花が飾っていてる。玄関の灯籠もおしゃれ、店主は風情を分かる人だね」


珊瑚は店の雰囲気を誉めた。


「そんなことより、例の話だ」


修良は席に着き早々、本題に入った。


「あれ、気のせいかな。修良さんのご機嫌はいつもより悪いみたい。ねぇ、幸一」


でも、珊瑚はわざと話題を修良のほうに投げ返した。


「確かに……どうしたの先輩?何かよくないことでも気付いた?」


「気のせいだ」


修良は無表情にこの話題を切った。


「……」


仕方がなく、幸一は問い詰めしなかった。


「珊瑚、話を逸らすな。私たちが知っている『救世主』の情報がほしいだろ」


修良が催促したら、珊瑚はにっこりと口元を緩めた。


「実は、これは例の、噂を利用して、妖怪たちを幸一に尾行させた者が提供してもらった極秘。この情報に免じて、その者を許してほしいな」


「お人よしのつもりか」


「かつての部下への情というものだ」


「実際に被害がなかったから、俺は別にいいけど……」


幸一は珊瑚の条件に同意した。


本来なら、簡単にあの人を見逃したくなかったが、今はそれ以上悪質な噂が流された。以前のことが逆に小さく見えてきて、笑って過ごせるようになった。


「でも、彼は一体何のために俺にあんなことを?」


「幸一の顔に婚約者の心を奪われた逆恨みだそうだ」


「……なるほど」


現実的にありそうなことなので、幸一は疑いもしなくその理由を呑み込んだ。


「でも、昔の部下のためにわざわざ頼んできて、珊瑚はやっぱりいい人……」


「それはなしで!」


「過ぎたことはもういい。とにかくお前の情報を聞かせてもらおう」


修良は多く言わず、もう一度催促した。


「……」


修良がお酒や世間話に付き合う気がないのを悟って、珊瑚はがっかりそうに一ため息をついてから、事情を話し出した。


「朝廷は、救世主を探している、だそうだ」


「朝廷?」


「そう。約二か月前に、異常な流星天象があった。星官の解読によると、『救世主』出現の予兆だそうだ。だから、それがしが所属している御霊堂はその捜査をやっているんだ」


一日中に二回も「朝廷」とうい言葉を聞いた。


(それはただの偶然なのか……)


修良は疑いを口に出さずに、質問を珊瑚に投げ返した。


「見つけたらどうするつもり?反乱のきっかけにならないように秘密に殺すのか」


「殺すなんて、ひどいね修良さん」珊瑚は苦笑した、「どんな目でこの国の朝廷を見ているんだ?」




「真偽はともかく、とりあえず朝廷に招いて、国のために働かせる。普通だろ?」


「そうだな。真偽はともかく、救世主が現れたって話が、世の中に災いありの言い換えみたいなものだ。公表せずに秘密に探し出すのも当然なことだな」


幸一は珍しく深刻な表情をした。


「さすが幸一、分かるな」珊瑚は幸一の解釈を認めた、「で、幸一が言っていた救世主ってどんな人?」


「朝廷が探している人かどうかわからないけど、俺たちが遭遇した『救世主』は『災い』そのものだ」


幸一は肩をすくめた。


「詳しく教えて」


珊瑚は興味津々に幸一の隣に身を寄せた。


いつもと違い、修良は珊瑚の親密の挙動を止めなかった。




「うわ、確かに、美しくなさすぎる災いだね。幸一から霊力を吸い取るなんて最悪だ」


太陽太歳の事件を聞いて、珊瑚は顔をしかめた。


「だろ。先輩に汚名を擦り付けて、俺の力で先輩を殺そうとした」


太陽太歳が「悪鬼」云々と修良を責める場面を思い出すと、幸一はまだムカつく。


「でも、確かに救世主絡みの怪しい事件だね。情報ありがとう、記録しておく」


情報交換が一旦終わったので、珊瑚は冷遇された料理に手を伸ばした。


でも何口か食べたら、ふっと思い出したように、幸一に別の質問を投げた。


「そうだ。汚名と言えば、二人に聞きたいことがある」


「!」


幸一はよくない予感をし、箸を持っている手が思わず震えた。


「間違えたらごめんね――『玄天双煞(げんてんそうさつ)』って、二人のことなの?」


「……」


珊瑚との仲だし、すでに当てられたので、幸一は観念して、珊瑚に事情を説明した。


その後、珊瑚の笑い声が食事の伴奏になった。

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