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百二 朝廷との「商談」

***


次の日、幸一(こういち)修良(しゅうりょう)仙縷閣(せんるかく)の貴賓室で重要な「来客」を待っていた。


「俺が一緒で本当にいいのか?商談とか全然分からないし、先輩の足を引っ張るかもしれない」


商談と言えば、実家にいる間に父の作法を見たことがあるが、実際に出たことはない。


幸一はなんとなく緊張して、思わず前世の記憶から関連の経験を探ろうとした。


「昨日も言っただろ。幸一がないと、この『商談』は成立しない。向こうは幸一を指名した。もともと幸一のために来た可能性もある」


修良はいつものように冷静。


「俺のために?」


そんなこと、昨日の夜、修良は何も言わなかった。


「朝廷の救世主探しを担当している者は、幸一こそが『救世主』だと疑っている。ぜひとも幸一に会って確かめたい、と。幸一が『救世主』だと判明した場合、幸一を朝廷に召募するつもりのようだ」


「!?そんな大事なこと、なんで昨日何も教えてくれなかったんだ!?」


幸一ははっと目を見開いた。


「あれ?幸一は知らなかった?」


修良は無実そうに聞き返した。


「ごめんね、うっかりしていたかもね」


「先輩ほどの人がうっかりしたなんて言い訳にもならない」


幸一はムッと顔を引き締めた。


「うっかりしたよ。最近、幸一とはずっと別行動で、即時に情報共有ができていないことにまったく気づいてなかった」


「……」


(やっぱり怒っている……)


この「うっかり」が修良の意地悪だと幸一は悟った。


「でもそれほど困ることじゃないだろ?幸一は救世主になるつもりはないなら、断ればいい」


修良は片手で頬杖をつき、いかにも気楽そうな様子だ。


「もちろんないけど、向こうがどう判断するのか分からないじゃないか。言い争いになったら、朝廷の人を殴って解決できない」


朝廷の者の対応法ときたら、幸一はやはり困った。


「ということは、幸一から見れは、自分が救世主である可能性があるよね」


修良の視線が鋭くなった。


「!?」


「言っただろ。私たちの力は相反するもの。幸一を神に迎えることと、私を消滅することは一体両面のようなもの。幸一の力を吸い取って、私を消滅しようとする『救世主』が出た以上、幸一が直接に私を消滅する線があるのも当然だ」


「……」


珊瑚が気づいて、幸一自身も気付いたことだから、修良が気付いていないはずがない。


幸一はもう一度真剣に修良に意志を表明した。


「俺は救世主だろうとなんだろうと、先輩を傷付けるわけがない!」


「たとえ、私はあなたが求めている純白な『天良鬼』そのものじゃなくても?」


「どういう……?」


修良の雰囲気がいきなり冷たくなって、幸一は戸惑った。


「この間、幸一が言っていた『天良鬼』との記憶が、私は持っていない」


「!それは……」


幸一は慌てて何かを言おうとしたが、修良は指を数えて、冗談のような口調に戻った。


「幸一に役に立つ法術も使えないし、好きな洞簫も吹けない。なにより、『顔』が違う~」


「っ!先輩!俺は何より『顔』のことが嫌いと知っているだろ!」


初めて、幸一は「顔」のことで修良に怒った。


「私の顔を言っているのに、なんで幸一が怒るかな」


修良は知らんぷりで笑った。




「修良様、幸一様、粛衛(しゅくえい)将軍様がいらっしゃいました」


廊下からの牡丹(ぼたん)の声が二人の口争いを断ち切った。




間一髪の時で、修良はその粛衛将軍が妖怪であることだけを幸一に教えた。


粛衛将軍擎啸風(けいしょうふう)と一緒に来たのは参謀の于又(うゆ)


二人の入室と共に、幸一たちは一陣の冷たい風を感じた。


幸一は一度最強妖怪の「妖界大将軍」に会ったことがある。珊瑚(さんご)の実力の強さもよく知っている。


擎啸風から感じたのは、彼たちとはまた別の強さ。


一見、雪山のような沈着冷静なのに、利刃のような鋭い雰囲気を纏っている。 


御霊堂(ごれいどう)粛衛将軍擎啸風だ」


「御霊堂粛衛将軍配下参謀、于又です」


二人は公式的に自己紹介をした。


「此度、ご対面に応じていただき、誠に感謝する。仙縷閣店主、天修良様」


啸風の灰色の光が浮かんでる瞳が修良の深淵のような瞳と見つめ合う。


二人は無言に相手の力を読み取ろうとした。


その時、幸一の懐から小さな動物の喚きが響いて、一匹の白い子狼が飛び出した。


「白牙ちゃん?」


その子狼は幸一がとある妖怪から没収された法具妖怪だ。


かわいいからずっと愛玩動物として持ち歩いている。


子狼は床に正座し、礼儀正しく啸風に頭を下げた。


「!」


「白狼の法具妖怪か」


身長の高い啸風と拳の大きさの子狼、対面に立つと、なんとなく面白く見える。


「狼の妖怪か?」


幸一の呟きを聞いて、啸風は気にせずに正体を明かした。


「凌雪狼族だ」


「粘着質の火狐と監視好きの雪狼、よく似合っているんじゃないか」


「先輩!?」


意外にも、修良が先に挑発した。


幸一は于又が妖怪を煽って自分を監視する犯人のことを知らない。


だけど、啸風が幸一との対面を要求したのを聞いた時から、修良はこの二人を疑った。


啸風は顔色一つも変わらなかったが、後ろの于又の表情が明らかに焦ってきた。


修良は于又を一目を見てから、静かに啸風の出札を待っていた。


すると、啸風は一歩前に出て、頭を下げた。


「妖怪を利用し、玄幸一を尾行させることは、確かに、こちらの管理不足で起こした不適切な行動だった。御霊堂の長としてお詫びをする。どうか、お許しを」


「!」


幸一は驚いた。


一見冷徹で傲慢そうなこの将軍が素直にお詫びをするなんて、まったく予想外の展開だ。


だが、啸風の次の言葉は鋭さを見せた。


「だが、すべては、その玄幸一がこの世界をの鍵を握っているからだ」


啸風は興味深い視線を幸一に送って、話を続けた。


「珊瑚のおかげで、玄幸一の力に関する情報の流出が抑えられているが、妖界での一件だけではなく、世界の縫い目で『世界の意志』が出現した以上、玄幸一が世界の核心と関わることはもう明白だ。そのうち、彼に興味を持つ者はどんどん追ってくるだろう」


「うるさい奴がいれば、全部抹消すればいい、もちろん、あなたたちも含めて」


修良は淡々と啸風に言い返した。


「先輩……っ!」


幸一はまずいと修良を止めようとしたが、啸風は眉一つ動かなかずに、冷静に修良に利害を語った。


「その場合、お前たちも高い代価を払うだろう。玄幸一は天象が示した救世主の可能性がある。朝廷に協力した場合、朝廷から保護を受けられる。利用できる資源をすべて利用し、お互いに最善な結果を探るこそが賢明な策と思わないか?」


「朝廷の保護?」


修良はおかしいことでも聞いたように嘲笑った。


「本気でそんなことを考えているのたら、まず朝廷の存在を心配したほうがいい」


この国は五十年以内に滅ぶことはないと牡丹に言ったばかりだけど、幸一のためなら、修良は迷いもなく自分の判断を砕ける。


「……」


啸風は一旦話を止めた。


珊瑚から修良のくせを聞いたが、実際に試してみると、思ったよりも交渉の余地がない。


この「悪鬼」、自分の力に絶対的な自信を持っているのか、それとも、絶対的な人間不信なのか……


そこまで玄幸一に執着する理由は、一体なんなのか?


これ以上固執しても無駄だと判断し、啸風はとりあえず一歩譲った。


「どうやら、この対面で玄幸一に関する話をするのは無理のようだな」


「さすが人間界で将軍を務める妖怪さんですね。お分かりがはやい」


「先手攻撃」の目的が達成したので、修良は口調を緩めた。


「私はこの仙縷閣の店主ですから、救世主なんかおとぎ話より、商売の話を詳しく聞かせてもらいたい」


「分かった。商売の話をしよう」啸風は顔色も変えずに頷いた。


「だが言っておく。この仙縷閣に仕事を依頼する理由はまさに『救世主』にある」


「ということは?」


修良はもう一度啸風をじっくり観察した。


このバカでかい身長を持つ狼将軍、一見快刀乱麻な人物だけど、珊瑚に負けないしつこさがあるようだ。


「救世主は、一人ではない」


「!」


「朝廷の調査によると、複数の救世主が存在することが判明された。その一人は、この仙縷閣で役者を務めている――鏡花(きょうか)というものだ」

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