19話 攻略対象者④ 生徒会顧問の先生登場
編入初日の夜、寮の自室にて――
アリスの侍女チェルシーは、ただいま絶賛大興奮中である。
推しのルードを生で見られたことが余程嬉しかったのか、ずっと喋り続けているのだ。
おかげでアリスはなかなか寝させてもらえない。
「生ルード様、マジイケメン! それにさすがアリスお嬢様、ゲーム初日から生徒会に誘われるなんて! これって最短記録じゃないですか? 超ヤバーイ!!」
放課後にジェイルがやってくることを知っていて、チェルシーはわざと姿をくらませていたらしい。
察しは付いていた為、腹立たしく思いつつも放置していたら、とんでもないことを言い出した。
「じゃあ、あと残りの二人にもすぐに会えちゃいますね! これはあっという間にハーレムエンド突入か!? ますます目が離せない~!」
「えっ、生徒会にまだ攻略対象者がいるの? しかも二人も?」
「そうですよー、生徒会の顧問をやってるシモンズ先生と、私たちと同じ一年生で、商人の息子のベクター君です。これで全員揃いますね。よっ、爆速コンプリート!」
ちょっと待って、聞いてないよ!
やっぱり生徒会に入ったのは失敗だった気がしてきた。
でも、こうなったら生徒会のメンバーとしてみんなで一致団結して、青春とか友情とか信頼とか、そっち方面を充実させるっていうのもアリかもしれない。
うん、それしかない!
「結局、攻略対象者は全員生徒会関係者な訳ね。『ときめき生徒会』っていうゲームのタイトルにしてくれていれば、わかりやすくて絶対生徒会にだけは近寄らなかったのに……」
「ダサっ!! それじゃあダサくて誰もプレイしませんよ」
「いやいや、『ときめき学園恋のラビリンス』だって相当ダサいでしょ?」
「この世界にケンカ売ってます? ヒロインのくせに」
「だーかーらー、ヒロインなんてやりたくないんだって! 今日もパパラッチみたいなのばっかりで落ち着かないし、私のプライベートはどこ行った?」
「そんなもん最初っからないですよ。あーあ、お嬢様はルード様と楽しそうでいいな~」
ひどい……。
訴えてやりたい。
そして賠償金でひっそり生きていくんだ。
あまりの言い草に、一瞬現実逃避をしてしまった。
「やっぱりチェルシーもカフェテリアにいる私たちを見ていたんだね。でもどう見たらあれが楽しそうに見えるのよ。ルード様、私を大食いだと思ってやがるわ」
「事実じゃないですかー。ルード様は滅多に他人に興味を持たないし、女の子と話さないキャラなんです。それなのにお嬢様にだけは自分から喋りかけて! 正直、ジェラシーです!」
意味がわからない。
そして、チェルシーの好みもわからない。
「……もう寝るね。明日は朝から生徒会室に呼ばれているし」
「まあ! それは私も早く起きて観察しないと。じゃあ、おやすみなさーい」
はやっ、もう寝てるし。
お前はの○太くんか!
アリスも疲れていたのか、すぐに意識を手放したのだった
◆◆◆
翌日の朝、気持ちを切り替えたアリスは、早速生徒会室を訪れた。
チェルシーは教室に置いてきたはずなのだが、またどこからか覗いているに違いない。
ノックをすると、「どうぞ」と入室を許可する返事があった。
まだ聞いたことのない男性の声だ。
「失礼します」と中に入ると、そこには見たことのないヒョロっと背の高い男性しかおらず、奥の黒板を静かに眺めている。
黒板には今月の予定らしきものがびっしりと記入されていた。
その男性は後ろ姿だけなので顔はわからないが、肩下まである茶色の髪を一つに結わいている。
服装がどう見ても制服には見えない為、名前を聞かなくても誰だかわかってしまった。
「あの、昨日ユリウス様にこちらに伺うように言われたのですが……」
「ああ、新メンバーのアリス君ですね。よく来てくださいました。もうすぐ彼らも戻ってくるので、こちらの椅子にでもかけていてください。あ、私は生徒会顧問のシモンズです」
アリスの考えていた通り、この人が四人目の攻略対象者、シモンズ先生らしい。
振り返った顔は思ったより若く、優しそうな少し垂れ目のイケメンだ。
話し方も穏やかだし、これは女生徒にモテそうである。
椅子をひいてエスコートしてくれる姿も品があって、やはり大人の男性だなとアリスは思った。
「ありがとうございます。あ、一年のアリスです。よろしくお願いします」
すでにユリウスから伝わっていたみたいだが、一応自己紹介を済ませると、勧められた椅子に座らせてもらった。
生徒会室は案外シンプルで、大きなテーブルと椅子が八脚、あとは黒板しかない。
壁は飾り気のない棚で埋まっていて、ファイルがたくさん仕舞われているが、テーブルの上や床にも書類らしきものが束になって置かれている。
先生はテーブル越しに向かいの椅子に腰をおろすと、垂れ目を細くして笑った。
「アリス君が入ってくれて助かりました。今のメンバーは男子生徒ばかりな上、一般生徒からは近寄りがたいと思われているようで。募集しても敬遠されるし、仕事ばかりが溜まってしまってこの有り様です」
それはそうだろう。
なんてったって、この国のトップ階級の御曹司たちである。
加えて、ヒロインのアリスに遠慮をして誰も入ろうとしなかったのかもしれない。
なにしろストーリーに忠実な生徒ばかりなのだから。
「いえ、私もこの学園に入ったばかりなので、大した戦力にはならないと思うんですが。書類を整理するくらいなら頑張ります」
「十分助かりますよ。アリス君が加わってくれることになって、すでにメンバーは活気付いていますから」
顧問がこの先生なら、スパルタで過酷な生徒会活動にはならないだろう。
ちょっと安心してしまった。
「シモンズ先生は何の教科を教えていらっしゃるんですか?」
「私は歴史ですよ。古代史が専門なんです。興味があったらぜひ専攻してくださいね。あ、戻ってきたようです」
ノックと共に生徒会室に入室してきたのは、ユリウス、ジェイル、ルードと、見知らぬ小柄な可愛い男の子だった。
「おはよう、アリス。早速来てくれてありがとう」
「おう、アリス。シモンズ先生とはもう話したのか?」
「昨日あれだけ食べてもお腹を壊さないとは、丈夫な胃袋だな。感心する」
「ユリウス様、おはようございます。昨日お約束しましたので。ジェイル様、今ご挨拶したところです。ルード様、お褒めいただきありがとうございます。寮の夕食もしっかりいただきましたよ」
アリスもそれぞれに挨拶を返すと、残る一人に視線を向けた。
きっと彼が最後の攻略対象者に違いない。
ここからが本当の勝負の始まりだとアリスは気合いを入れ直した。




