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若葉が突然、咳き込んで倒れたのは、彼女が十七の春を迎えた頃だった。
当時の医学では不治の病と恐れられていた、結核だった。
「若葉……! 若葉、顔を見せてくれ!」
「なりません、蓮一郎さま! あのような不浄の病の者に近づいては、葛木の家の名折れ、お前まで命を落とします!」
両親の怒号と、屋敷の者たちの手によって、俺は屋敷の奥へと力づくで引き戻された。
若葉とその家族は、感染を恐れた屋敷の者たちによって即座に解雇され、町外れの湿った荒野にある小さなあばら家へと隔離された。
面会など許されるはずもなかった。
門には鍵がかけられ、俺の部屋の前には見張りが立てられた。
それでも、俺は夜ごと屋敷を抜け出した。夜陰に乗じて塀を乗り越え、泥に塗れながら町外れのあばら家へと走った。
トントン、と小さな格子窓を叩く。
内側から、弱々しい咳払いが聞こえ、やがて青白い顔をした若葉が、障子の隙間から顔を覗かせた。
「蓮一郎……さま……? いけません……来ては、いけません……お命が……」
「命など惜しくない! お前を一人で逝かせるくらいなら、俺も同じ病に冒されたって構わない!」
格子の木枠を強く握りしめ、叫ぶ俺を、若葉は涙で濡れた瞳で見つめた。
障子越しに差し出された彼女の手は、かつてのしなやかな美しさを失い、骨が浮き出るほどにやせ細っていた。
窓を開けて、今すぐ中へ飛び込みたかった。
その身体を力いっぱい抱きしめ、熱い唇を重ねて、俺の命をすべて分け与えたかった。
だが、若葉は固く首を振り、弱々しい力で障子の隙間を押し留めたのだった。
「だめです……。私の……私の愛した蓮一郎さまを、私の病で汚すわけにはまいりません……」
「若葉……っ!」
「お願いです、蓮一郎さま。そこから……格子越しに、歌を詠んでください。貴方の美しいお声を……聴かせてください……」
夜毎、冷たい夜風が吹き荒ぶ中、俺は格子窓の向こうの彼女へ向けて、短歌を詠み続けた。
愛している。逢いたい。抱きしめたい。
どれほど言葉を重ねても、隔てられた木枠一枚を越えることができない。
触れ合えない苦しさに、俺は夜の闇の中で血の涙を流した。手を伸ばせば届く距離にいながら、彼女の唇の柔らかさも、素肌の温もりも、何一つ知ることができないまま、無情な時間だけが砂時計のように零れ落ちていった。




