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第三十二話① 侵攻直前(前編)


 ブランコ村、オプヘティーボ村、サクリフィシオ村。

 この三つの村を占拠した後。


 イチヤは伝令の兵を使い、国境を越えてきたノース軍に指示を出した。一万もの軍勢を三つに分け、占拠した村に滞在させた。人数に対して、村はかなり手狭であったが。休息を取らせながら、伝令の兵を使って今後の予定を共有した。


 本当は、イチヤ自身が三つの村に出向き、情報を共有したかった。だが、イチヤが村を抜けたら、兵士達が暴走する可能性が高い。歯がゆさを感じるが、伝令の兵を使うしかない。


 ブランコ村ではハイディアが、兵士達を上手く制御しているようだった。村人を襲おうとした兵もいたらしいが、彼女が防止させたのだという。


 ハイディアは優秀な魔術師だ。その能力は、信じられないほど高い。レトの言葉を借りるなら、召喚者レベルかそれ以上の魔術師だという。強力な戦力にして、信用できる仲間。


 イチヤはすでに、自分の付き人であるレトよりも、ハイディアの方を信頼していた。


 とはいえレトも、オプヘティーボ村でしっかりと兵士を制御しているようだ。蹂躙された村人は皆無。レトの指示に従い、大人しくしているという。


 伝令の兵を使い、イチヤは、侵攻の日を共有した。三日後の昼間。


 当然だが、奇襲をかけるなら夜の方がいい。夜の闇の中では、突然の攻撃に対応しにくい。反面、夜の闇の中では、自分達の視界も悪くなる。必然的に、犠牲が多くなる。まして敵軍は、いざとなれば籠城して迎え撃つことができるのだから。


 だからこそイチヤは、昼間に攻め込むことを選択した。


 昼間に攻め込む理由はそれだけではない。


 ブランコ村を制圧したとき、ノース軍は、逃走する村人の捜索を疎かにした。捕えた村人を早く蹂躙したいという、下らない理由で。


 逃走した村人がフロンテーラに逃げ込み、攻め込まれたことを伝えた可能性は、かなり高い。それなら、フロンテーラで迎え撃つ用意をしているだろう。


 敵軍が戦う準備をしているなら、総力戦をしかける。こちらには、ハイディアという強力な魔術師がいる。レトという国内随一の魔術師もいる。兵力は、恐らく、若干こちらが下回るだろう。けれど、この二人の存在が、兵力の差を埋めてくれるはずだ。


 さらに、形勢が不利になれば、一度撤退して占拠した村に戻ることも可能だ。一斉に撤退すれば、軍の統率を崩すことなく立て直しが可能だ。


 イチヤが滞在するサクリフィシオ村は、フロンテーラの南にある。


 フロンテーラの構造は、あらかじめ情報として得ていた。フロンティアにそっくりの城塞都市。四方を高い城壁に囲まれ、東西南北に一つずつ、大きな門がある。


 偶然にしては似すぎている二つの都市の名前。都市の形状。


 戦争が始まる前は、おそらく親交があったであろう二国。


 どうして争うようになったのかは、イチヤには想像もできなかったが。


 そして、侵攻の日を共有してから三日が経った。フロンテーラへ攻め込む日。


 イチヤは四〇〇〇近くの兵を率いて、サクリフィシオ村を出発した。先頭に立ち、フロンテーラに向う。


 背後から、兵士達の憎々しげな視線を感じた。ブランコ村から呼び寄せたカボも、もう友好的には接してこない。当然だ、と思う。彼等は、侵略した村の住人を蹂躙することに、これ以上ない悦びを感じていた。それを、イチヤが奪ったのだから。イチヤの行動が正しいか正しくないかなど関係ない。楽しみを奪われた彼等は、イチヤの力に押さえ付けられて従っているに過ぎない。


 他の村から来た軍と合流した。ブランコ村から来た軍をハイディアが、オプヘティーボ村から来た軍をレトが率いていた。それぞれの村には、数人の千人長が滞在していたはずだが。兵士達の暴走を抑える過程で、すっかり彼女達が指揮を執るようになったようだ。イチヤと同様に、兵士達の評判はよくなさそうだが。


「イチヤ様」

「イチヤ」


 合流した直後、レトとハイディアがイチヤのもとに来た。


 フロンテーラから約一キロメートルの場所。そびえ立つ城壁がよく見える。その城壁付近で臨戦態勢になっている、サウスウェスト軍も。


 レトやハイディアに続いて、九人の千人長もイチヤの元に来た。カボも合わせると、十人の千人長。彼等の誰もが、イチヤに対して良い感情を抱いていないだろう。


 彼等の支持を得て人望を得るためには、卑劣な行為を認める必要がある。彼等とともに、攻め落とした村や都市の人々を蹂躙する必要がある。


 弱者を虐げなければ得られない人望など、必要ない。イチヤはすでに、割り切っていた。嫌われるのは、学生時代で慣れている。むしろ、力で周囲を黙らせることができる分、今の方がマシだ。


 イチヤは淡々と、レトやハイディア、千人長達に指示を出した。敵軍は、もう臨戦対戦に入っている。小細工はない。真っ向からの総力戦。


 レトの話によると、シュウが侵攻したときはフロンテーラに召喚者がいたという。恐らく今回も、サウスウェストの召喚者はフロンテーラにいるだろう。臨戦態勢をとっている軍の中で、待ち構えているはずだ。


 これもレトから聞いた話だが、サウスウェストの召喚者は女性であり、かつ、ハイディアと同レベルの魔術師だという。


 イチヤは、ちらりとハイディアを見た。圧倒的な能力を持つ魔術師。もし彼女と戦ったら、まるで勝てる気がしない。


「イチヤ様、どうしました?」


 あまりにまじまじと見ていたせいか、ハイディアが訊いてきた。


「いや、何でもない」


 フロンテーラ侵攻に関して、イチヤはずっと考えていた。攻め込む際の人の配置を、どのようにするか。


 陣形は基本通りにする。この世界での、戦争の基本。前衛に戦士、後衛に魔術師。敵の魔術師から放たれる魔術を後衛の魔術師に無効化させ、戦士が前に出て攻め込む。


 イチヤが悩んでいたのは、レトとハイディアの配置だ。


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