表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/70

第二十八話 どちらの方が信用できるか


「私が兵を見張ります。自分で言うのも馬鹿みたいですけど、私なら、兵が暴走しても抑える力があります」


 ハイディアがそう言ってくれたので、イチヤは、迷うことなく次の村に出発することができた。


 イチヤの後ろには、約八〇〇の兵。隣りには、いつもと同じようにレトがいる。次の目的地は、オプヘティーボ村。ブランコ村から東に二キロメートルほどのところに位置する村だ。


 森の中を進軍する。もう誰も、イチヤと口を聞こうとしない。後ろにいる兵士達から、明らかな不満と敵意を感じる。あれほどイチヤを敬っていたカボも、今では、不機嫌を剥き出しにしていた。


 ブランコ村を制圧、占拠した後。


 イチヤは頭を抱えていた。どうやって次の村を攻め落としに行くか。とはいえ、オプヘティーボ村を攻め落とすのは、それほど難しくない。ブランコ村のときと同じように奇襲をかけ、宿舎にいる兵を全滅させる。これだけなら、イチヤ一人でも可能だ。しかし、村人を捕えるには、どうしても多くの人員が必要だった。


 兵士達を働かせることは可能だ。力で脅せばいい。逃亡したら殺す。村人を逃したら殺す。真面目に働かなければ制裁を加える。イチヤの力は、連れている兵の誰もが知っている。だから、ブランコ村でも、村人に危害を加えなくなった。恐怖で支配すれば、しっかりと働くだろう。


 問題は、イチヤ自身がブランコ村を離れることだった。イチヤがいない間に、見張りに残した兵が、村人に危害を加えるかも知れない。しかし、イチヤがオプヘティーボ村に行かなければ――脅すように目を光らせなければ、進軍する兵は真面目に働かないだろう。


 頭を抱えていたイチヤを救ったのが、ハイディアの一言だった。彼女が村で見張りをするという申し出。


 ハイディアの申し出はかなり有り難かった。彼女は、レト以上の魔術師だ。彼女の力の片鱗を何度か見たが、その度に驚かされた。もし彼女と戦うことになったら、正直なところ勝てる気がしなかった。


 ハイディアのお陰で、予定通り進軍できた。夜を待ち、オプヘティーボ村に攻め込んだ。村人に対して不必要な暴行を行わないよう、兵士達を脅したうえで。


 兵士達は、誰も彼もが渋々といった顔を見せていた。イチヤになど従いたくない。でも、逆らったら殺される。仕方がないから従おう。彼等の心の声が聞えてくるようだった。


 サウスウェスト兵が待機している宿舎には、イチヤ一人で攻め込むつもりだった。常駐している兵の数は、おそらく一〇〇人か二〇〇人。その程度の数ならどうにでもなると思っていた。


 もっとも、レトだけは、イチヤの側から離れなかった。


 ブランコ村で兵の蛮行を目にして以来、イチヤは、レトはほとんど話していなかった。彼女のことが信じられなくなっていた。


 レトは、ブランコ村で、村人が嬲られる様子を平然とした顔で見ていた。兵士達の蛮行に激高するイチヤに、いつもの澄ました顔で聞いてきた。


『何をそんなに怒ってるの?』


 イチヤは、レトのことを、母親の為に自分を犠牲にする健気な子だと認識していた。母親の為に、召喚者に自分の体を差し出した。母親の為に、命懸けの戦場に出た。いつも澄ましているが、人の心がないわけではない。痛みも屈辱も知りながら、澄ました顔で耐え抜く。そんな女性だと。


 でも、違った。レトは、ただ単に、苦痛に鈍感なだけなのだ。だから、ノース兵に蹂躙される村の女性を見ても、平気でいられたのだ。彼女自身が、自分の体を召喚者に弄ばれても平気だから。


 レトは、ただ単に、仕事だからイチヤの側にいるだけ。人としての情など、微塵もない。そんな女とは、必要以上に話す気にもなれない。


 とはいえレトは、仕事は仕事として全うしてくれる。オプヘティーボ村を占拠したら、イチヤは、兵の見張りをレトに任せるつもりだった。彼女なら、召喚者である自分の指示には従うはずだ。たとえ、村人の代わりに兵士達に犯されることになっても。


 深夜の村の中。いたるところに、かがり火が点在している。夜の村を照らす明り。


 ブランコ村のときと同じように、村に夜襲を仕掛けた。


 宿舎に攻め込んだイチヤに対し、常駐しているサウスウェスト兵が襲いかかってきた。予想していた通り、数は一〇〇人強といったところか。


 イチヤは、淡々とした作業のように敵の攻撃を避け、剣を振った。暗がりでは黒く見える、斬り捨てた兵士の血。ピチャピチャと音を立てて、生温い飛沫がかかってくる。自分はかすり傷程度しか負うことなく、次々と命を奪ってゆく。


 戦いながら、イチヤは、ハイディアの言葉を思い出した。


『戦争は楽しいですか?』


 ブランコ村で戦ったとき、イチヤは、確かに高揚していた。向ってくる敵兵を次々と斬り捨てることで、自分の強さに酔っていた。力に溺れかけていた。下手をすれば、村人を蹂躙する兵士達に交じっていたかも知れない。力のある自分なら、何をしても許される――と錯覚して。


 ――ハイディアに感謝だな。


 敵兵に囲まれながら、イチヤは苦笑してしまった。自分も、もう少しで、鬼畜同然になるところだった。


 イチヤはすでに、レトよりもハイディアの方を信用していた。


 イチヤが剣を振るたびに、敵兵の数が減る。一〇〇人以上いた兵の数が半分になり、四分の一になり、八分の一になり。


 やがて、十人程度になった頃。


 圧倒的な力の感じ、絶望に囚われた敵兵が、イチヤに斬りかかるのを躊躇していた。


 ブランコ村では言わなかったセリフを、イチヤは口にした。


「投降するなら殺しはしない。けど、戦うなら容赦しない」


 サウスウェストの兵は、投降しなかった。狂ったような、それでいて泣きそうな顔で、イチヤに斬りかかってきた。


 イチヤはあっさりと、残った敵兵も斬り捨てた。


 思惑通りに、オプヘティーボ村も陥落させた。


※次回更新は6/9を予定しています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ