第二十一話 フロンテーラ侵攻計画
夜が明けてきた。地平線の向こうから、太陽が顔を出し始めている。
フロンティアの兵がデルパイース川を渡り、敵国の待機所に攻め込んだ翌朝。
一仕事終えて、イチヤは大きく息をついた。川辺に立って、大きく伸びをする。
川の中には、多くの死体。待機所の見張りの死体だ。
待機所への夜襲は、フロンティア軍の圧勝だった。犠牲者はゼロ。重傷者が二名。軽傷者が三名。もっとも、傷を負った者も、レトやハイディアの回復魔術で完全に回復している。
待機所の見張りの死体は、夜のうちに、デルパイース川に捨てた。
死体を片付けると、各自が待機所に入った。殺し合いの爪痕が残る、待機所室内。血がそこら中に飛び散っていた。
陽が昇り始める頃。サウスウェストの兵士が二〇〇ほど、待機所に来た。見張りの交代をするためだ。
待機所で待ち伏せていたフロンティアの兵士は、交代に来た者達も片付けた。これで、少なくとも夜までは時間を稼げる。
交代の兵士を全て片付けると、カボは、四人の兵士をフロンティアに使いに出した。見張りのいない状況で、大勢の兵士をサウスウェストに進軍させるためだ。
まずは二千の兵士に川を渡らせる。そのうち千ほどの兵が、フロンテーラの周囲にある村をいくつか襲撃する。残りは、待機所周辺の見張りに残す。
フロンテーラ周辺の村を襲撃している間に、さらに多くの兵士をサウスウェストに呼び寄せる。最終的にフロンテーラを襲撃する兵の数は、概ね一万を予定していた。
朝日が昇ってきても、イチヤは、デルパイース川の前で佇んでいた。他の兵は、各々休息を取っている。レトも、今はイチヤの傍にいない。待機所のひとつで休息を取っている。ハイディアも同様に。
イチヤの前に流れるデルパイース川。ぼんやりと眺めていると、向こう岸に、多くの兵の集まりが見えてきた。使いの者達が連れて来たノース軍だ。こちらに向かって進行してくる。
イチヤは腰を上げた。徹夜のせいか、疲れを感じる。自分も休息を取ればよかったと、少し後悔した。とはいえ、休息と取ろうとしても眠れなかっただろう。
高揚し、興奮している自分を、イチヤは自覚していた。英雄扱いされることに、気分が良くなっている。ノースを侵略しようとし、各村で蛮行を働いたサウスウェストを、攻め落とそうとしている。二度とあんな蛮行を行わせないために。日本にいた頃にはなかった、目的意識。周囲が称えてくれる快感。それらが、イチヤの目を冴えさせていた。
向こう岸にノース軍の姿を確認すると、イチヤは待機所の一つに足を運んだ。カボが休息を取っている待機所。
待機所で仮眠を取っていたカボを起こし、ノース軍が進行してきたことを伝えた。
召喚者であるイチヤに伝令役をさせたことを、カボは謝罪してきた。もちろんイチヤは、自分から進んでやったことだと窘めたが。
すぐに、川の向こう岸はノースの兵でいっぱいになった。そのまま、川を渡ってくる。待機所付近は、ノースの兵で埋め尽くされた。二千もの兵。運んできた兵糧。これからさらに兵を進軍させるのだから、サウスウェスト側も、そのうちこちらの動きに気付くだろう。できるだけ気付かれないよう、細心の注意は払うが。
今回の戦いの目的は、サウスウェスト国境の軍事都市である、フロンテーラの攻略。これに成功したら、さらに多くの兵をサウスウェスト国内に進行させる。フロンテーラを拠点として、サウスウェスト国内深部へと攻め込んでゆく。最終的には、敵の王都を陥落させ、サウスウェストという国をノースの一部にする。
最終目的のために、フロンテーラ攻略は絶対条件だった。
ここで一挙に一万の兵を進軍させ、そのままフロンテーラに攻め込むという手もあった。前召喚者であるシュウは、その手段を用いた。途中にある村をいくつか陥落させたものの、休息も取らず、勢いのままフロンテーラに攻め込んだ。
結果は、完敗。
戦いは、双方が総戦力を注いで一気に決着をつけるものではない。魔術師が遠距離で攻撃し、あるいは相手の魔術師の攻撃を無効化する。その間断を縫って戦士が攻め込む。戦いには必ず押し引きがある。必要に応じて攻勢に出る場面もあれは、状況の悪化により引く場面もある。
戦いが長引いた場合、拠点となる基地が必要だ。食料物資が確保でき、かつ、休息も取れる場所。
自分達が戦いの拠点とするために、フロンテーラ周辺の村を占拠する必要がある。敵国とはいえ、非戦闘民である村人を巻き込むのは申し訳ないが。
もっともイチヤには、村人に手を出すつもりなどまったくない。サウスウェストの兵とは違う。できるだけ大きな建物で、しばらく幽閉することにはなるだろうが。
兵が全て川を渡ると、ノース軍はすぐに行動を開始した。サウスウェスト側がノース軍の進行に気付くまで、おそらく十数日ほどと予測している。それまでに複数の村を占拠し、兵を村に移動させる。ここからは、時間との勝負だ。
国境の川岸に集まった兵に、カボは細かく指示を出していた。
そして。
集まった兵が、それぞれの持ち場についた。
村を占拠する部隊は、引き続きカボが指揮することとなった。もちろん、イチヤやレト、ハイディアも同行する。
「では行きましょうか、イチヤ様」
「そうですね」
村に攻め込む部隊が、全員、馬に跨がった。
ふと、イチヤの耳に、兵士達の声が届いた。待機所を見張る兵士達の声。自分達も村の占拠に加わりたかった、というようなことを話している。いかにも悔しそうな声だ。
もしかして、今後の戦いに大きな影響を与える村の占拠は、花形の仕事に見えるのだろうか。野球でいうエースピッチャーのような。だから、その役割を与えられなかったことを、悔しがっているのだろうか。
カボが出発の合図をした。
村の占拠に向かう部隊が、走り出す。
占拠の標的となる村は、すでに決まっていた。いずれも、フロンテーラの西方向にある村。オプヘティーボ村、ブランコ村、サクリフィシオ村。いずれも村としては規模が大きく、フロンテーラからの距離は二キロメートル以内にある。フロンテーラ攻略の拠点としては、恰好の場所と言えた。
最初の標的はブランコ村。人口は七○○人ほどで、村に常駐している兵は百人前後という情報を得ている。
兵を片付け、村人は、村長宅などの大きな家に幽閉する。他の村民の自宅を、兵の休憩所に使用する予定だ。
村に向かって、イチヤ達は森を駆け抜けた。
※次回更新は5/19を予定しています。




