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第十七話 ハイディア


 将軍が一人の女性を連れて来たのは、彼が彼女の話をしてから一時間後くらいだった。


 もちろんイチヤ達は、ただ将軍の帰りを待っていただけではない。サウスウェスト国内に上陸した後、どのように行動するか。どのように拠点を確保して戦うか。サウスウェスト攻略について、様々なことを議論していた。


 将軍に連れて来られた女性は、イチヤの前に立ち、頭を下げて一礼した。


「イチヤ殿。この者がハイディアです」

「初めましてイチヤ様。ハイディアと申します」


 綺麗なお辞儀の後、ハイディアは顔を上げた。


 将軍の話の通り、驚くほどの美女だった。長い金髪。エルフの特徴である髪色だ。しかし、耳は長くない。人族とエルフのハーフだろう。綺麗なアーモンド型の目に、光が当たると金色にも見えるブラウンの瞳。まるで人形のように整った顔立ち。レトと同じような、前ボタンのローブを着ている。長袖で、体のラインが分かりにくいローブ。魔術師の標準装備だ。薄く化粧をしているが、素顔でも美人だということが容易に分かる。


 元の世界でも今の世界でも、これほどの美女は見たことがない。


 それなのにイチヤは、ハイディアをどこかで見たことがある気がした。初対面なのに。既視感というやつだろうか。あるいは、元の世界で似た人物を見たことがあったのか。


 どうでもいいことを頭の隅に追いやり、イチヤは立ち上がった。ハイディアがしたように、イチヤも一礼した。


「初めまして。聞いてると思うけど、現召喚者のイチヤだ」

「ええ、存じております」


 ニッコリと、ハイディアが微笑んだ。綺麗な声だ。


 周囲を見ると、他の千人長や将軍がハイディアに見取れていた。無理もないことだとは思うが、謹んで欲しい。イチヤはひとつ、咳払いをした。将軍達は慌てて、姿勢を正した。


 イチヤは、女性と寝ることができない。裸の女を前にすると、勃起できなくなる。だからこそ、美女を前にしても下心を抱くことはない。ハイディアのような美女を前にしても、平常心でいられる。


「もしかしたら、もう聞いてるかも知れないけど――とりあえず、これから俺が言うことに関して、可能か不可能か聞かせて欲しい」

「たぶん、百人以上でも可能です」


 イチヤが説明する前に、ハイディアは回答を口にした。


「ここに来るまで、将軍から伺ってます。水中で呼吸できるように、体の周囲に空気を纏わせることが可能か――ですよね?」

「その通りだ。できるのか?」

「必要性がなかったので、今まで試したことはないですが。でも、それほど難しくないと思います」


 答えて、ハイディアは空を見た。まだ太陽が真上にある。夜襲を仕掛ける時間でもなければ、闇討ちを警戒するような時間でもない。


 視線を空からイチヤに戻して、ハイディアが聞いてきた。


「実際に試してもよろしいでしょうか? もちろん、いきなり兵を百人ほど用意するのではなく、ここにいる方々で」


 ハイディアは、自信に満ちた顔で微笑んでいる。できると確信しているのだろう。


「そうだな! 試してもらおうか!」


 千人長の一人が、どこか感情を昂ぶらせて声を上げた。ハイディアが美人だからだろう。声から感じられる熱意が、先ほどまでの比ではない。


「では、デルパイース川まで行く馬を用意させよう!」


 他の千人長や将軍も、次々と同じように声を上げた。どこの世界でも、男は美女に弱いらしい。誰にも聞えないように、イチヤは小さく溜め息をついた。


 もっとも、ハイディアは、イチヤの溜め息に気付いたようだ。彼女も、イチヤ以外には聞えないように、クスリと笑った。


 溜め息と微笑を互いに聞き合って、イチヤとハイディアは顔を見合わせた。互いに、身長は同じくらい。一六〇ほど。身長が同じだから、目線の高さもほぼ同じ。


 目線だけで、互いに意思疎通し。


 イチヤは苦笑を浮かべ、ハイディアは変わらず綺麗な微笑を浮かべていた。


 千人長の一人が、城門前の部隊まで走って行った。人数分の馬を用意するよう、命じるために。


※次回更新は5/7を予定しています。

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