↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/155

第九十話 本来の吸血鬼

 

 マセリアの部屋に、ハイドが入ってきて。


 ハイドが治療をすることを告げても、マセリアは、諦めの顔で苦笑していた。まるで期待していない表情。


 ただ、それでも嬉しそうではあった。


「レトは幸せね。こんなにもいい人達に囲まれて」


 ハイドが問診していると、マセリアは、ポツリと呟いた。娘の周囲にいい人達が集まっていて、嬉しい。


 マセリアの様子が一変したのは、ハイドが催眠魔法をかけ、彼女の皮膚や血液、骨や筋肉を採取した後だ。


 催眠魔法をかけられたマセリアは、完全に意識を消失した。ハイドが彼女の皮膚を切開し、血液や皮膚、骨や筋肉を採取しても、一切の痛みを感じていなかった。意識を失っているのだから、当然だが。


 採取後は、回復魔術をかけて治療をした。ハイド自作のシャーレに、採取した検体を入れた。レトの部屋に検体を持ち帰り、最後に、ハイドが催眠魔法を解いて。


 意識を取り戻したマセリアは、ハッと目を見開いた。キョロキョロと周囲を見回す。


「あれ? 私、いつの間にか寝てた?」


 マセリアは、うたた寝でもしていたと思っているようだ。無理もないが。


「俺の魔法です。皇帝陛下ほどではないですが、俺も魔法を使えるんです。だから、皇帝陛下の治療の痕跡から、マセリアさんの治療を試みます」

「魔法……?」


 魔術ではなく、魔法。


 皇帝に治療を受けていたマセリアは、魔法の存在自体は知っているはずだ。それがどのようなものなのかを理解していなくても。


「皇帝陛下以外に、使える人がいるの?」

「私の知りうる限り、他にはいません。サウスウェストやサウスイーストの皇帝が使えるかは知りませんが。ノース国内で使えるのは、たぶん、私とロキ皇帝陛下だけです」


 皇帝は、ハイドにとっての仇だ。それでも、マセリアの心に負担をかけないため、ハイドは「陛下」という敬称を使っていた。彼女に事実を悟られないために。胸の中には、虫唾の走る思いが駆け巡っているだろう。それでも彼は、嫌な気持ちを一切顔に出していなかった。


 今のハイドの様子を見て、イチヤは、彼が以前言っていたことを思い出した。


『吸血鬼は圧倒的な力を持ちながらも、本来は温厚で争いを好まない』


 確かにハイドは、戦いの中で圧倒的な力を見せていた。敵軍を、残酷なまでに殲滅していた。けれどそれは、そうする必要があったからだ。歌人として失った恋人のことを歌い、マセリアのために尽くす姿こそが、本来の彼なのだろう。


「なんなら、実際に俺が魔法を使うところを見てみます? これから、イチヤにもかける予定なんで」

「……は?」


 つい、イチヤは間の抜けた声を出してしまった。


「何で俺?」

「言っただろ? マセリアさんと比較するために、イチヤの皮膚とか筋肉とか、骨や血液も貰うって。それとも、催眠魔法なしで提供してくれるの?」

「いや、それは嫌だけど。マセリアさんの前で、俺を切り刻むつもりか?」


 血や皮膚だけならともかく、骨や筋肉まで採取するには、深く皮膚を切開する必要がある。マセリアのときも、彼女の腕を深く切開していた。


「マセリアさんの前で、そんなグロテスクなことするわけないだろ? マセリアさんの前で意識を飛ばしたら、そのままレトの部屋に運んで採取するよ。まあ、イチヤの意識が飛んでることを証明するために、顔に悪戯書きくらいはするかも知れないけど」

「何の罰ゲームだよ」


 イチヤとハイドのやり取りを聞いて、マセリアがクスクスと笑った。


 つられてイチヤも笑いつつ、ホッと胸を撫で下ろした。先ほどまでの胸が痛くなるような雰囲気が消えた。


「さて。それじゃ、イチヤに催眠魔法をかけようか?」


 ハイドも悪戯っぽく笑っていた。


「本当にここでかけるのか?」

「うん。本当」

「ごめんなさい、イチヤさん。私も、ハイドさんの魔法を見てみたい」

「……いや、まあ。マセリアさんが見てみたいなら」


 彼女の心が少しでも軽くなるなら、催眠魔法をかけられてもいい。


「でもな、ハイド」

「何?」

「顔に落書きは勘弁してくれ」

「わかったよ」


 言いつつハイドは、イチヤと視線を合わせてきた。視線を合わせるのが、催眠魔法の発動条件。


「じゃあ、落書きじゃなく化粧にしておく。可愛くしてあげるから」

「ちょっ……!」


 直後、イチヤの意識は途切れた。


※次回更新は10/20を予定しています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
目が覚めてたら女の子になっていた、みたいな展開いいかもしれない(ォィ イチヤお兄さんはおしまい! みたいな(ォィ といっても女装ですが(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。