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第七話 初めての都市


 フロンティアの城壁の中。そこに広がる都市。

 イチヤの目の前に広がる光景。

 その光景は、今まで見てきた村とはまるで違っていた。


 建物は、ほとんどがレンガ造り。木造中心の村の家々とは異なり、かなり頑丈そうだ。しかも、複数階建ての集合住宅まである。ということは、この世界でも賃貸物件というものがあるのだろうか。


 並んでいるのは住宅だけではない。店舗として利用している建物。こんな早朝でも、飲食店は開業していた。元の世界での、早朝から営業している飲食店のようだ。


「じゃあ、とりあえず鍛冶屋に行くよ。イチヤの剣の手入れをしてもらわないと」

「ああ。でも、こんな早朝から開いてるのか?」

「開いてるよ。鍛冶屋みたいな火を使うところは、朝早くて店仕舞いも早いの」

「へえ」


 イチヤは、フロンティアの地理など知らない。当然、レトについていくしかない。


「そういえば、鍛冶屋の場所とか侯爵邸の場所とか、分かるのか?」

「そりゃあね。イチヤの前の召喚者――シュウっていうんだけど、その人の案内をしたのも私だし」

「そうだったな」


 前召喚者の名前を、イチヤは初めて聞いた。男だということは知っていたが。シュウという名前は、偽名だろうか。もしくは、本名だろうか。日本人の名前だとも思えるし、外国人の名前とも思える。


 石畳で整備された通路。早朝だからだろう、人通りは多くない。泥にまみれた村の道と違い、歩きやすい。


 十分ほど歩くと、鍛冶屋についた。鍛冶屋兼、武器や防具の店。レトの言う通り、すでに営業している。周囲とは異なり、木製の建物だった。


 ドアを開けて店内に入ると、ムアッとした熱気が漂ってきた。鉄を熱して武器や防具を作るのだから、店内が暑くなるのは当たり前だ。イチヤはすぐに、この建物が木造である理由を理解した。保温性の高いレンガ造りでは、店内の温度が異常なほど上昇してしまう。


 店内には、複数の剣や防具が見本として展示してあった。展示している品物を客が見て、店に注文する形式らしい。


 店の入り口正面にはカウンターがある。一メートルほどの高さのカウンター。カウンターの正面には、注文に対する値段が書かれていた。もっともイチヤは、まだ、この世界の文字を完全に読めるわけではないが。


 召喚されたとき、イチヤは、皇帝ロキに魔法をかけられた。この世界の言語を理解できる魔法。そのため、日本語と同レベルで話すことも聞くこともできる。しかし、文字の読み書きについては、ロキに掛けられた魔法は効果がないようだ。


 カウンターには中年の女性がいた。恰幅のいい体型に、茶色の髪の毛。ドワーフの特徴が色濃く出ている。


 カウンターの奥は通路になっていて、どこかに続いているようだ。おそらく、作業場に繋がっているのだろう。


 イチヤとレトはカウンターまで足を運んだ。


「剣の手入れをしてほしいんです。かなり使い込んだから、傷んでると思うんで」

「承知しました。見せてもらえますか?」


 恰幅のいい外見の通り、よく通る声だった。


 イチヤは、背中に掛けた鞘から剣を抜いた。通常の剣の三倍はあるであろう大剣。軽々と片手で抜いてみせると、カウンターの女性は目を見開いた。


「凄いですね」

「デカい剣でしょう? でも、これくらい大きくて重くないと、逆に扱いにくくて。軽過ぎると、どうしても、剣を持ってる感覚が掴めないんです」

「いえ。そうじゃなくて」

「?」

「こんな大きな剣を、何の苦労もなく鞘から抜いたことがですよ。あなたみたいな少年兵が粋がって大きな剣を持つことは、それなりにあるんです。でも、どの子も、鞘から抜くことさえ苦労して、結局は軽めの剣に落ち着く。ですが、あなたは、簡単に剣を抜いて見せた」


 イチヤが手にした剣に、女性は軽く触れた。


「それにこの剣、かなり使い込まれてますね。見た目には分かりにくいですが、斬った人の油や血が落ち切っていないし、刃こぼれもかなりしてる。使った後で拭く程度の手入れはしてるみたいですけど、研いだりはしてなかったんじゃ?」

「ああ、まあ。俺は剣の研ぎ方なんて分からないし、レトも――」


 言葉を切って、イチヤは、隣りにいるレトを顎で指した。


「俺の連れも、剣の研ぎ方なんて知らないみたいですし」

「まあね」


 イチヤの言葉に、レトが同意した。


「では、鞘に入れて置いていってもらえますか?」

「はい。仕上がりはどれくらいになりますか?」

「たぶん、閉店直前――夕方くらいですね」

「それじゃあ、夕方を目処にまた来るんで」

「かしこまりました」


 皮のベルトを外し、イチヤは、背中から鞘を取った。剣を収め、カウンターに立てかける。


「よろしくお願いします。あと、代金は?」

「引き渡しのときにいただきます」

「だってさ。レト、金は大丈夫だよな?」


 一応、イチヤはレトに確かめた。彼女は、国の指示でイチヤの付き人を務めている。仕事の内容からかなりの報酬を得ているはずだし、旅の費用も受け取っているはずだが。


「大丈夫。ちなみに、いくら?」

「この剣の痛み具合だと、たぶん一万ディネロくらいですね」


 この世界における金の価値を、イチヤはイマイチ理解していない。一万ディネロとはどれくらいの額なのか、まったく判断がつかない。


「問題ない。じゃあ、イチヤ。夕方くらいにまた来るとして、少し街を回るから」

「ああ」


 レトに促されて、イチヤは鍛冶屋を出た。

 まだ早朝。元の世界の時刻で言えば、午前七時くらいだろう。


 この世界に来てからイチヤが学んだのは、戦いに関することだけだった。ロキに召喚された場所は、ノース王国中央部にある、王都レアルカピタル。そこで一ヶ月ほど剣の技術を学んだ後、レトと共に旅に出た。


 この世界での一ヶ月は概ね九十三日。一年は一一一五日。元の世界の約三倍。人の寿命は、元の世界と同じく八十~百歳。つまり、この世界の人間は、元の世界の人間に比べ三倍の寿命がある。


 旅に出たら、ほとんどひたすら実戦だった。夜に山や森の街道を歩き、山賊に襲われ、返り討ちにする。サウスウェスト軍に侵攻された村に立ち寄り、敵国の兵を壊滅させる。そうすることで、実戦における能力を向上させる。


 旅の途中で疑問に思ったことは、都度都度レトに聞いた。

 それでもイチヤは、この世界について、まだまだ知らないことが多過ぎた。


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