↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/155

第七十六話 捜している理由によっては


 シウダッドミリタールでサウスウェスト軍を撤退させてから、一ヶ月ほどが経った。


 ハイドの目から見ても、イチヤやプリメラの成長は著しい。


 プリメラは、特に回復魔術の才能に秀でていた。人間の身としては、すでに最高レベルの回復魔術が使用できる。かけられる者の生命力さえ残っていれば、切断された四肢すら繋げられるほどの回復魔術。


 イチヤに関しては、確かに、召喚者にしては才能に恵まれない。召喚者なのだから、当然、人間を遙かに上回る能力がある。しかし、ハイドが知っているどの召喚者よりも、運動能力で劣り、身体能力が低い。だが、彼には、淡々と訓練を行える愚直さがあった。ハイドでさえ知らなかった、効率的な訓練方法を知っていた。ハイドが協力して、効率的な訓練をひたすら行った。


 今のイチヤは、ハイドが見てきたどの召喚者よりも強い。今日の訓練では実戦形式で戦ってみたが、息切れする程度には苦戦した。


 イチヤやプリメラの成長を感じて、頃合いかな、と感じ始めた。もうそろそろ、皇帝討伐に乗り出してもいいかも知れない。


 森の中での訓練を終え、シウダッドミリタールに戻ってきた後。


 ハイドは、イチヤとプリメラを連れて、適当な食堂に入った。割りと大きめの食堂。夕食を摂り、宿に戻ったら、二人に今後のことを話そう。


 そんなことを考えていたら、食堂内で、見知った顔を見つけた。


 レト。フロンテーラでの敗戦後に別れた、ノースの召喚者の付き人。健気にイチヤを助けようとしていた、エルフの少女。


 レトは、食堂の中で聞き込みをしていた。イチヤの行方を捜しているらしい。


 今のイチヤは手配中の身だ。彼が生きていると、ノースは次の召喚者を呼び出せない。召喚者は、各国に一人だけ。それが、皇帝達のゲームのルール。皇帝が支配するこの大陸で、見せかけの王国を三つ建国し、三人の皇帝の駒として動かす遊び。


 人の命を弄ぶ、下劣な遊戯。


 イチヤが生きたまま行方不明になっている状況は、ノースの皇帝ロキにとっては不都合なのだ。だから、見つけ出して始末しようとしているのだろう。


 ということは、レトは、国王や皇帝に命じられてイチヤを探しているのだろうか。


 ――でも……。


 レトがイチヤを捜している理由は、容易に推測できた。ただ、ハイドには、ひとつ腑に落ちないところがあった。


 フロンテーラの戦いで、レトは、限界を超えた力を絞り出してイチヤを助けていた。


 人が自分の限界を超えることなど、滅多にできるものではない。よほどの強い意志がない限り不可能だ。ただの付き人としてイチヤを助けていたのであれば、レトは、早々に逃げ出していたはずだ。あのときは、イチヤに勝ち目などなかったのだから。


 つまりレトは、限界を超えられるほど強い気持ちを、イチヤに対して抱いている。


 フロンテーラの戦いで、ハイドは、レトにフィルスタの面影を見た。


 同じエルフの少女。二人とも、ほぼ純血のエルフ。綺麗な金髪に、長い耳。


 ハイドに――好きな人に会うために、限界を超えた力を絞り出し、生き残ろうとしたフィルスタ。

 イチヤを守るために、体力の限界を気力で乗り越えていたレト。


 二人に共通する、強い想い。


 そんな気持ちを抱えたレトが。

 イチヤを殺すために、王やロキの言いなりになるだろうか。


 ハイドが出した答は、「否」だった。もっとも、レトにとって、イチヤの命よりも重要なことがあれば話は別だが。


 だとすれば、レトがイチヤを捜しているのは、単に彼女の意思なのだろうか。


 カウンター席の客達に話を聞き、レトは、入口の方を向いた。イチヤの目に、彼女の姿がはっきりと映ったようだ。もちろん、レトの目にもイチヤが映っている。


 互いの姿を確認して。互いが、互いに、互いのことを認識して。


 イチヤとレトは、見つめ合ったまま硬直した。


 今のイチヤの髪は、ダークブラウンに染められている。ドワーフと人族の混血の特徴。彼の世界には、髪の毛を染める文化があるそうだ。しかし、この世界に、そんな文化はない。


 だから今まで、ノーチェがイチヤだと誰も気付かなかった。一致している特徴が多数あるにも関わらず。


 でも、レトなら。

 髪の毛の色が違っても、ノーチェがイチヤだと気付くかも知れない。


 沈黙していたレトの口が、開きかけた。


 ハイドの計画では、この後レアルカピタルに行き、イチヤの髪の色を戻し、捕えさせる予定だ。イチヤを捕縛したハイドやプリメラも同行し、イチヤを殺せる唯一の人物――ロキを誘き寄せる。そこで、ハイドとイチヤ、プリメラの三人でロキを討つ。


 だから、ここでイチヤの正体が知られるのは、都合が悪い。


 レトがイチヤの名を口にする前に、ハイドは先手を打った。


「レトさん!」


 ことさら大きな声でレトを呼び、ハイドは彼女に駆け寄った。


「お久し振りです、レトさん」


 嬉しそうな美女の顔で――ハイディアの顔を見せて、ハイドはレトの手を握った。


「故郷へは戻られたんですか? どうしてこんなところに?」

「あ……」


 口にしようとした言葉を遮られて、レトは小さな声を漏らした。


「そうだね。久し振り、ハイディア」


 レトは少しだけ、苦しそうな表情を見せた。フロンテーラに進軍したときに、何度か見せていた顔。どんな感情が彼女の中に湧き出ているのか、ハイドには分からない。


 ハイドはレトの手を離し、店の入口にいる二人を指し示した。


「私、今、旅をしてるんです。敵国への進軍は嫌ですけど、せめて国を守ろうと思って。それで、あの二人――ノーチェさんとプリメラさんに、手伝ってもらってるんです」


 イチヤの偽名を口にし、ハイドは、早口でレトに説明した。じっと彼女の目を見て、アイコンタクトを試みる。


 レトはどうやら、ハイドの意図を察してくれたらしい。目を細めて、小さく頷いた。


「シウダッドミリタールで、チサトが討たれたって聞いたの。それで、どんな人がチサトを討ったのか、気になって」

「それで、ここに来たんですか?」

「ええ。チサトを討ったのは、男の戦士と女の魔術師だとも聞いてたけど。魔術師は、やっぱりハイディアだったんだ」

「はい。敵の召喚者とは、私とノーチェさんが中心になって戦いました。大変でしたけど、なんとか討つことができたんです」

「そうなんだ」


 レトの表情が、かすかに動いた。苦しそうな顔が、寂しそうな顔になった。彼女の心情は、やはりハイドには分からない。


 ハイドの話に応えると、レトは黙り込んでしまった。


 ハイドには、レトに確認すべきことがいくつかある。

 レトはなぜ、イチヤを捜しているのか。彼女が、ロキや王の命令でイチヤを捜しているなら、一旦は説得する。イチヤのことをロキや王には報告しないでほしい、と。


 もしもレトが、イチヤのことをロキや王に報告するというのなら。


 その時は、彼女を消さなければならない。


 レトを殺すことを考えると、ハイドは、少なからず心苦しくなった。彼女にフィルスタの面影を見たせいだろう。


「レトさん」


 ハイドはじっと、レトの目を見た。彼女の瞳には、苦しさや寂しさが滲み出ている。


「少し、私達とお話ししませんか? ここじゃ都合が悪いんで、私達が泊まってる宿に来てください」

「……」


 レトは、ハイドの後ろに視線を送った。彼女が誰を見ているのかなんて、視線を追わなくても分かる。


 再度ハイドに目を向けると、レトは小さく頷いた。


「うん、わかった」


※次回更新は9/22を予定しています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こっからが分水量よなぁ。 物語全体の大局を左右するレヴェルの。 個人的には、三皇帝すべてを倒した瞬間に次元そのものの終わりが始まって、そんで最終手段として、ハイドが自身を犠牲にして、作中の惑星自体を…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。