第七十五話② 胸が苦しい再会(後編)
考えたとき、可否を確かめたくなった。だから、夜中に宿を抜け出して、娼館に足を運んだ。もっとも、セックスをするつもりはなかった。料金を払って、男性不能が改善しているかだけを確認したかった。
結果は、以前と変わらなかった。裸の女性を目の前にしても、イチヤの男性器は何の反応も示さなかった。
この世界に来て、生きる目的ができた。戦争を終わらせたい。目的のために努力することは、確かな活力となっている。
それでも、あらためて実感した自分の欠陥に、胸が苦しくなった。
ハイドとプリメラの未来が気になるのも、きっと、自分の欠陥に劣等感を抱いているからだろう。劣等感があるから、彼等の関係が進むことに期待をしている。自分にできないことを、心に傷を持つ仲間に成し遂げて欲しい、と。同時に、寂しさを感じてしまう。彼等が結ばれたら、自分だけが置いてけぼりになってしまう。
「じゃあ、帰ろうか」
ハイドが、イチヤとプリメラを促した。
「はい」
「ああ」
イチヤとプリメラは口々に返事をし、森の中を抜けた。シウダッドミリタールに着き、城壁の門を通り、街中に入る。
先ほどまでオレンジ色だった夕日は、すっかり光を失っていた。太陽はもう見えなくなっている。立ち並ぶ店は、入口のランプに火を灯し始めていた。路上の露店は、店仕舞いの片付けをしている。
都市は、つい先日までの絶望的な状況を回避した。日常に戻った人々が、数多く歩いている。
「お腹は空いてる?」
ハイディアの声で、ハイドが訊いてきた。
「そうですね。今日も疲れましたし、お腹も空きました」
自分の腹をさすり、プリメラが答えた。
ハイドは微笑ましそうな顔を見せると、近くの食堂を指差した。
「じゃあ、あそこで食べてから帰ろうか。今日は少し厳しめだったから、宿に戻ったら、何もする気になれないだろうし」
「そうだな」
ハイドに先導され、イチヤとプリメラは食堂に入った。
窓から陽光が入らなくなった、食堂店内。ランプの火が灯されているが、やや薄暗い。
外観から想像するよりも、店の中は広かった。六人掛けのテーブルが十席。カウンターも十席。客入りも上々のようだ。カウンター席には五人座っているし、テーブル席も四つ埋まっている。
テーブル席付近に、一人、立っている女性がいた。魔術師用のローブを着ている。金髪に長い耳。エルフだ。イチヤ達には背を向けているので、顔は見えない。
エルフの女性は、カウンター席に座っている男達と話し込んでいた。
知人同士かと思ったが、すぐに違うと分かった。
「人族で、十六、七歳の男を知らない? 背中に、普通の剣の三倍はありそうな大剣を背負ってるの」
エルフの女が、カウンター席の男達に尋ねていた。
男の一人が、笑いながら答えた。酒が入っているようで、ちらりと見えた横顔が少し赤い。
「それ、お尋ね者の召喚者だろ? 確か……イ……イ……何だっけ?」
「イチヤ、じゃなかったっけ? まあ、残念だけど知らないな」
「そう。わかった」
淡々と返答する女性の口調に、イチヤは覚えがあった。口調だけではなく、彼女の声にも。
イチヤの鼓動が、少し速くなった。もしかして――と、心が波打った。
カウンター席にいる客全てに聞き終えたのか、エルフの女性は、店の入口の方に体を向けた。
イチヤの目に、彼女の顔が映った。
イチヤがフロンテーラの戦いで敗れたのが、この世界での十ヶ月ほど前。もとの世界でいうなら、二年半も前のことになる。
つまり、最後にレトと会ったのは、イチヤの感覚では二年半も前だ。
「あ……」
無意識のうちに、イチヤの口から声が漏れた。ずっと気にしていた女性の姿が、この場にあった。
レト。召喚者の付き人。
彼女の姿を見た途端、なぜか、イチヤの胸は苦しくなった。
※次回更新は9/20を予定しています




