ダンジョンへ
ガタゴトと馬車が揺れる。あまりに揺れるので、ウトウトすることもできない。事前に揺れると聞いていたので、毛布を尻にひいているのだがあまり意味がない。行き先がダンジョンしかないこの道は、なんとか馬車が通れるだけの整備しかされていないようだ。
そう、俺たちは満を持してアンデッドダンジョンに向かっていた。乗り合わせるのは4人組のパーティー、2人組のパーティー。全員男だ。そしてアンデッドダンジョン常連さんで、もう腐敗臭がする。
「川で水浴びしても、なかなか臭い取れないんだよな」
「そうそう。その前にまたダンジョン潜っちゃうからね。まぁもう、俺なんか鼻が馬鹿になってるけど」
目の前の2人組がうんうん頷きあう。他の4人も同じようなもので、彼女に振られただの、食い物が不味くなっただの、アンデッドダンジョンあるあるを話し始めた。新入りは珍しいのか、初日からよく構ってくれている。
「それでもアンデッドダンジョンに行くんだな?」
話が逸れていつの間にかイケメン爆発しろ的なグチになってきた。標的にされたコクシンが呆れたように言うと、当たり前だろと言わんばかりに全員が胸を張った。
「儲かるからな!」✕6
「ぶっちゃけ金があったら行かない」
「俺らも。借金返したら他に行く」
「あと2回も潜れば、いい剣が買える!」
「あほう。その前にお前らは俺に金を返せ!」
どうも目の前の2人は借金持ちのようだ…。
ピィーーー!!
不意に甲高い笛の音が届いた。
「おっと、魔物だ!」
馬車のスピードが緩やかになり、後ろからバラバラとみんなが飛び降りていく。この馬車は普通の乗合馬車と違い、護衛がいない。乗っているのがみんな冒険者で、御者も元冒険者だ。御者が魔物の襲来を感知し、乗り合わせた者が倒す。お陰で料金は安い。
「ん、どこだ?」
前方にはなんの姿もない。荒れた道があるだけだ。両側には背の高い草が茂っていて、若干視界が悪い。索敵持ちの御者さんがすいっと鞭を持った手を上にやった。
「上?」
「ちっ! オニオンフライだ!」
双剣を抜いていた、4人組の1人が舌打ちした。その隣にいた斧を持った大柄の男も舌打ちして、斧を背に戻してしまった。
オニオンフライ。俺は普通に玉ねぎを揚げたあれを想像してしまうのだが、こっちのは立派な魔物だ。玉ねぎにトンボみたいな4枚の翅が生えていて、大きさは大人の拳ぐらい。小さい上に動きが素早く群れで襲ってくるので、力任せの攻撃が主体な人には面倒な相手だ。
「魔法で落とす!」
2人組の1人が杖を振りかざす。ぼうっ!と結構大きな火の玉が、群れに向かって飛んだ。何匹かはそれで黒ずみになったが、大部分にはさっと左右に避けられてしまっている。ふわっといい匂いがした。ちなみに基本玉ねぎなので、普通に食える。
バラけたオニオンフライが俺たちに襲いかかってきた。近寄られたら、魔法をぶっ放すわけにはいかない。俺も弓ではなくナイフで応戦するのだが、リーチが足らず当たらないでいる。と、ごちっと後頭部に攻撃された。ぶっちゃけ攻撃力は弱い。ただヒットアンドアウェイでごんごんぶつかって来るので、鬱陶しい。
「んもー!」
だんだんイライラしてきたぞ。ちらっとコクシンを見る。オニオンフライのスピードは問題ないようだ。正確に真っ二つにしている。ぎりぃ。ラダは? 後方でブンブン棒を回している。それは攻撃なのか、防御なのか。とりあえず大丈夫そうだ。
あ、そうだ。とりあえず動きを封じられればいいわけだ。土魔法でこう、ラケットを作って。ガットの代わりにトリモチをセットしまして。ぶんぶん。よし、垂れたりしないな。ではいってみよう!
「ふん!」
ちょうど向かってきたオニオンフライにラケットを振ると、びたんと上手いことくっついた。トリモチから逃れられるほど飛ぶ力はないようだ。ビビビと翅を震わせている。よしよし。
「フハハハ!」
ぶんぶんラケットを振り、オニオンフライを捕らえていく。面白いように捕れるな、これ。一杯になると新しくラケットごと作り直す。トリモチ外すのは手間がかかるからね。笑いながらラケットを振り回すお子様に、御者をしている元冒険者のおじさんが若干引いているが、気にしたら負けだ。
みんなの奮闘もあり、見事オニオンフライの群れを撃破した。食べられるので、まともに残っている個体は回収していく。ちなみに魔石はとても小さくて買い取ってくれないので、放っておく。
俺のは一匹ずつ絞めてからラケットごと魔法鞄に放り込んでおいた。晩ご飯のときに外そう。
再び馬車が動き出す。
「はー疲れた。痛くはなかったけど倒すのは大変だったね。あれ、無視して行ったらだめなの?」
必死に棒を振り回していて、腕が疲れたんだろう。自分の腕を揉みながら、隣に座ったラダが首を傾げた。俺も途中で、コクシンに風魔法でふっ飛ばしてもらおうかなと考えた。
「奴らはしつこいんだよ」
目の前の借金コンビが笑って答えてくれた。
「ずっと追ってくる。馬より若干速いしな。それにあの攻撃も馬鹿にはできん。攻撃を受ければ受けるほどハイになってきて酔ったようになるんだ。奴らは集団で相手が酔って弱るまでずぅーっと攻撃を続けるんだぜ」
ちらっと俺を見た。なるほど。俺が途中馬鹿笑いしていたのは、それのせいか。ただストレス溜まってたんだなぁくらいにしか思ってなかった。
「そうなんだ。それは嫌だね」
ラダが深く頷く。反対隣ではコクシンが「いい鍛錬相手だった」と満足げだ。
「それはそうと、面白い道具使ってたな? 魔導具なのか?」
4人組の魔法使いだろうか、彼はトリモチに興味があるようだ。
「魔導具ではないよ。自家製だからね」
「へぇ。数があるなら、いくつか売ってくれないか?」
うーん。アンデッドにも有効だろうし、いくつか分けるぐらいはいいんだけど、以前売るの断っちゃったからなぁ。それに自爆すると、ほんと困るんだよね。結局粘着力を弱めたものはできなかったし。
「こら。いきなり不躾だろうが。帰りならまだしも、行きでそういうものを強請るんじゃない」
俺が答える前に、魔法使いの頭を双剣使いがコツンと叩いた。それに魔法使いが苦笑いして「すまんな」と頬を掻いた。
「目新しいものだから、つい興味持っちまった」
「ああ、いえ。売るのはいいんだけど、取り扱いが面倒なんで、夕食のときにでも見せるよ」
ついでに外すの手伝ってもらおう。
「俺は、それより頭の上のが気になるなぁ。メガネってやつか、それ」
今度は2人組。お目が高い! 出来立てほやほやのゴーグルちゃんですよ! 3人色違いで付けてるんです。マントもほぼお揃いなので、3兄弟ですよ! 間違っても親子とは言わないように。
頭上に上げていたゴーグルを目元に装着する。
「これはゴーグルと言って、目を守る防具だよ。今回のために、作ってもらったんだ。ほら、ゾンビとか切ったときブシャーってなったら嫌だし」
「ほうほう。ゾンビは血は出ないが、たまに臭いつばを吐くからな。あれ、顔に掛かるとたまんねぇんだよな」
え、なにそれ。すごいやだ。前世の幼少期にラマだかラクダだかにぺっとやられたことを思い出したぞ。
「一応魔導具だからそれなりの値段はするんだけど、便利だよ。汚染防止と、防御力アップが付与されてるんだ。帰る頃には売り出されてるんじゃないのかな」
「へぇ。それは一般に売られるやつなのか」
「うん。Aランクのコーインさんも注文してた」
高ランクの名前を出すと、みなが目をきらんとさせた。やっぱり、あの人が使ってるなら俺も。みたいなのがあるんだな。ギルド長は分かっててコーインさんを広告塔にするつもりなんだろう。まぁ、俺らのと違って付与マシマシの特別製らしいけど。
再びゴーグルを額の上辺りに戻す。革製ではあるが、伸び縮みするので外して締め直すなんて手間がかからない。レンズの部分は錬金製の超割れにくい曇らないガラス。顔と触れる部分もゴムっぽい何かで作られていて、隙間はほぼない。注文通りすぎるものが出来上がってきて、思わず魔導具師は転生者かと疑ってしまったほどだった。違うみたいだけど。いくら原型は俺が作っていたとはいえ、腕がいいにもほどがある。帰って稼ぎが出たら、また何か作ってもらおうかなー。
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